僕はヒーローじゃない

文字数 425文字

僕は事情を包み隠さず、父に話しました。
豹真には豹真の、言霊使いとしての意地がある。だから、不甲斐ない僕に挑戦してきたんだ……刀根さんを人質に取ってまで。
(……)
 もしかすると、聞いていた理子さんは、恩着せがましいと思ったかもしれません。

 あるいは、子どもの喧嘩に親が出るのはみっともない、と思ったかもしれません。

 しかし、僕はこうするのが最も正しかったと信じています。決してヒーローの行動ではありませんが、それで充分です。

 なぜなら、僕は普通の人間ではありませんが、ヒーローでもないのですから。

……。
 豹真との経緯を知った父は、正座したまま、しばらく黙っていました。
(……ひょっとして、足が痺れて立てないだけなんじゃあ……)
 やがて、父はぼそりと言いました。
……言霊使いがこの時代に生きていくのに必要なのは、力じゃあない。
(力……じゃない?)
 そのとき思い出したのは、豹真の神経質に歪んだ笑い顔です。
(……そうさ、バカはどれだけ傷ついたっていい……)
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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