眠りの姫巫女

文字数 534文字

やれやれ……とんだ災難や。また消防で出んならん。
家は大丈夫かしら?
早く帰らなくちゃ!
道、すぐ混むんだから!
 土砂降りの中、大人たちがテントの撤収を始めたところで、背中にのしかかるものがあるのに気づきました。
(……理子さん?)
 ふと後ろを見やると、目を閉じたまま、もたれかかっていましたね。重くは……ありませんでしたが。
いやあ、和洋くん、本当にすまなんだ……せっかく練習したのになあ……。
あ……いえ、そんな……。
ああ、理子ちゃんもずぶ濡れになってまって……。ささ、着替えて着替えて。ワシらも消防行かんならん。
……着替え? え……あ……きゃあっ!
 あの後、実に済まなそうな顔をした町内会長さんに促されて祭壇から降り、役場の更衣室を借りて急いで帰ることになったんですが……。
ああ、お父さんにもよろしくな、消防に入ってもらったばっかりやけど。
ああ、はい……。

 いつか理子さんの言った通りに増水した川を前に、あの父がどれほどの役に立つかは分かりませんが……。

 それはともかく、僕は生返事をするしかありませんでした。

(……僕が何したってんだよ、全く)

 頬に付いた季節外れの小さな紅葉の跡は、その後しばらく消えなくて困りました。

 本当に……疲れて眠っていたんですよね? あのときは。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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