彼女が見せた、初めての顔

文字数 244文字

……?

 口ずさんだときは質問されてから随分経っていたので、理子さんがきょとんとしたのも無理はありませんが、あのときの表情は忘れることができません。

 無表情で、声を押し殺したように話す理子さんに、あんなとぼけた顔つきができるとは思わなかったのです。

洪水の夜に、崩れそうな堤防にすがって泣く気持ちを歌っているんですが……。
……そう。
 理子さんの表情が再び曇ったのには慌てました。どっちが本来の理子さんかは分かりませんでしたが、僕は、きょとんとしたときの顔をもっと見ていたかったのです。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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