豹真の力

文字数 491文字

 実感できたことは、まだありました。

 それまで何となく感じていた、豹真の性格の悪さです。

事故が起こっても、周りには、その場の誰かのせいだと思わせればいい。
(……いちばん知り合いになりたくないタイプだ)

 言霊使いがお互いをそれと感じ取れるのには、それなりにいいこともあります。

 なぜなら、父が言うには、言霊とは違う力を持つ者たちもいるからです。

 お互いにその存在は感知できないので、こうして仲間同士を見分けて固まることで棲み分けができてきたということなのですが……。

(……お互いに気づかないほうが幸せだったんじゃないかな、この場合)

 どうやら豹真にとって、僕は仲間というよりも、対等の喧嘩相手のようでした。

 自分が言霊使いであることを確かめるための。

いやなら、使わせてやるよ……お前の力。

(……口だけじゃ分かんないか)

 豹真の口が、小さく動いていました。耳を澄ますと、微かな声が聞こえてきます。

 言霊を動かすための祭文でした。

ほのたつや、ほのたつや、ひと・ふた・み・よ、ほむらたつ……。
(……熱っ!)
 肌で感じたものに、ふと身体を見渡せば、うっすらと煙が立っています。
(……これが?)
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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