河原での特訓
文字数 623文字
練習が中止されてしまったので、僕にはヒマな一日が待っているはずでしたが、神様というのはなかなかに意地が悪いものです。
帰ろうとした僕は、背後から理子さんに呼び止められました。
淡々とした口調でしたが、どきっとしました。いや、いい意味で。
「交際してくれ」の意味でないことは理解できていましたよ、もちろん。
僕が連れて行かれたのは町はずれの河原でした。
山裾に沿って流れる川のほとりの広い場所でしたが、山間なので、ところどころに大きな岩の転がる河原の石はごつごつと大きく、たいへん歩きにくくなっていました。
足もとの石がときどきぐらつき、僕はバランスを崩しがちでしたが、理子さんは軽々と歩くので、ついていこうにも距離はどんどん開いていきます。
やがて、トレパンにヤッケ姿の理子さんは大岩の一つに腰を掛けて、僕を待っていてくれました。
そう言うなり、ようやくたどり着いた僕の目の前へ、理子さんはぽんと飛び降りましたっけ。
帰りがけの一言と同じくらい、どきっとする宣告でした。
特訓という言葉に、いい思い出はないんです。父親が厳しかったもので……。
それにしても、まさか前日に会ったばかりの年下の女の子からシゴかれることになろうとは。このときばかりは、情けなくて涙が出そうになりました。