河原での特訓

文字数 623文字

 練習が中止されてしまったので、僕にはヒマな一日が待っているはずでしたが、神様というのはなかなかに意地が悪いものです。

 帰ろうとした僕は、背後から理子さんに呼び止められました。

つきあってくれませんか?

 淡々とした口調でしたが、どきっとしました。いや、いい意味で。

 「交際してくれ」の意味でないことは理解できていましたよ、もちろん。

どこへ?
 僕が連れて行かれたのは町はずれの河原でした。

 山裾に沿って流れる川のほとりの広い場所でしたが、山間なので、ところどころに大きな岩の転がる河原の石はごつごつと大きく、たいへん歩きにくくなっていました。

……。
……うわっ! ととと……。

 足もとの石がときどきぐらつき、僕はバランスを崩しがちでしたが、理子さんは軽々と歩くので、ついていこうにも距離はどんどん開いていきます。

(何のつもりだよ……いったい)
 やがて、トレパンにヤッケ姿の理子さんは大岩の一つに腰を掛けて、僕を待っていてくれました。
遅いですよ。
 そう言うなり、ようやくたどり着いた僕の目の前へ、理子さんはぽんと飛び降りましたっけ。
(勝手に呼びつけといて……何だよ)
特訓します。
(……は?)

 帰りがけの一言と同じくらい、どきっとする宣告でした。

 特訓という言葉に、いい思い出はないんです。父親が厳しかったもので……。

 それにしても、まさか前日に会ったばかりの年下の女の子からシゴかれることになろうとは。このときばかりは、情けなくて涙が出そうになりました。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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