理子と母と

文字数 489文字

 幼い頃は何とも思いませんでしたが、年月が立つほどに、他の子供たちとの違いを感じるようになりました。
「理子ちゃ~ん!」
「理子ちゃ~ん!」
「……ごめん、私」
「……理子?」
「……はい、お母様」
「つまんないの……」
「あっち行こ、行こ!」
「お母様、私……どうして?」
「あなただけじゃないわ……」
 言霊というものを使う人がこの町にいたらしいということも母から聞きましたが、いつのことかも分かりませんでしたし、そもそも互いに関わるものではないと言われてもいたので、気にすることもなく、ひたすら母に従って、この家に伝わる業を学んできたのです。
「お母様……足が……」
「山歩きって、そういうもの。じゃあ、一休み、しましょうか……」

 私が母と腰を下ろした山のてっぺんに、香り高い風が吹いてきたのを覚えています。

 あるいは……。

「ずいぶん遠くまで来ましたが……どこまで行くんですか?」
「川の流れが教えてくれるわ……」

 疲れきったところで雨が降ってきて、慌ててバスで帰りました。

 それから……。

「恥ずかしい、です……」
「大丈夫、ここには空と海と風しかいない……私たちと、素肌を通して、ひとつになって!」
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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