刀根家の奥方

文字数 485文字

 長い話だったので、気が付いたら僕たちは、理子さんの家の前に立っていました。
(……デカっ!)
 家というより、屋敷ですよね、あれ。

 長い長い坂を上ったところにごっつい門があって、その向こうから母屋の2階が見えるんですから。

遠いところまで、送っていただいてありがとうございました。
 門の前で深々と頭を下げると、あなたの長い髪が、流れるようにこぼれ落ちました。僕が返事もできなかったのは失礼だったとは思いますが、正直、それに見とれて声も出なかったのです。
(……うわ~、まさに地方の名家のお嬢様だ)

 黙ったままの僕を咎めもしないで、理子さんはインターホンで何か話しました。無視されたみたいで、何だか寂しい気もしましたけど、仕方ありませんよね。

 家まで送るのは、エチケットに過ぎなかったんですから。

……。
 インターホンから、美しい声が聞こえました。
……。
 何を言っているのかはよく聞こえませんでしたが、不思議に張り詰めた空気で背筋が凍ったのを覚えています。

(……豹真が言ってた母親かな?)

(……めっちゃ厳しいんだよな、確か)

(……まずくないか? 暗い道をこんな男が送ってきたら)

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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