刀根家の奥方
文字数 485文字
長い話だったので、気が付いたら僕たちは、理子さんの家の前に立っていました。
家というより、屋敷ですよね、あれ。
長い長い坂を上ったところにごっつい門があって、その向こうから母屋の2階が見えるんですから。
門の前で深々と頭を下げると、あなたの長い髪が、流れるようにこぼれ落ちました。僕が返事もできなかったのは失礼だったとは思いますが、正直、それに見とれて声も出なかったのです。
黙ったままの僕を咎めもしないで、理子さんはインターホンで何か話しました。無視されたみたいで、何だか寂しい気もしましたけど、仕方ありませんよね。
家まで送るのは、エチケットに過ぎなかったんですから。
インターホンから、美しい声が聞こえました。
……。
何を言っているのかはよく聞こえませんでしたが、不思議に張り詰めた空気で背筋が凍ったのを覚えています。