気まずい挨拶

文字数 390文字

 その雨は、午後から次の日まで続きました。

 僕は朝早く起きてジャージに着替え、朝食もそこそこに公民館へ向かいましたが、着いたときには大人たちはまだ来ていませんでした。

 ただ、そこにいたのは……。

(理子さん……!)
 あなたの姿を見て、何だかほっとしました。しかし、前日にあんなことがあったので、「おはよう」の一言がなかなか出せません。傘を差して、黙ったまま突っ立っているしかありませんでした。
……ごめんなさい。

 そう言われて、僕はしばし考えました。謝られる心当たりがなかったのです。「おはよう」って言ってほしかっただけなんですけどね、本当は。


(……河原に呼び出されたのは……僕のせいだし)

(……練習を邪魔したのは……豹真だし)

(……事情は……知られたらまた、引っ越しだな。最短記録。)

(……大雨は……天災だよね)

(……理子さんが雨乞い? まさかね)


……何か?
……あ、いや、その……。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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