たった1行の手紙の主
文字数 393文字
あなたがそうつぶやいて公民館の中へ駆け込んだおかげで、僕は危険なひと言を口にしないで済みました。
雨雲はすでに去り、空は再び冷めた青色を取り戻していました。
しかし、「春」の曲はすぐに止み、僕の足は止まりました。
背後の戸が開いたのです。
刀根と刀祢、どちらを書くのか分からないままにウロ覚えの名前を呼ぶと、返事をしたのは男の声でした。
刀に根っこと書いてトネだ。
振り向くと、そこには小柄な少年が立っています。
上目遣いに僕を睨みつけるなり、初対面の僕に理子さんよりも失礼なことを言いました。
男が相手なら何の気兼ねもいらないはずですが、僕はやはり何も言えませんでした。
畳み掛けながら見つめるそのまなざしには、背筋がぞっとするような何かがあったのです。