隠しきれない秘密

文字数 527文字

始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣らしたまふや、汝……
 いかに昔の言葉とはいえ、さっき聞いたばかりの言葉を復唱するぐらいの記憶力は持っています。

 問題は、その結果にあったのです。

(……やばっ!)
 僕が「汝」という言葉を口にした途端、春の空は灰色に乱れ始めました。

 小学生の頃、図工の時間に写生に出て、使った絵筆をすすいだ後の筆洗で絵の具が水に弄ばれているときのような、あの雲です。

 

 (……やっぱり、やっちゃった?)

 正直、焦りました。

 しかし、僕の発音はやはりおかしかったようです。

そのアクセント、変です……「な・ん・じ」。
 あなたはゆっくり言い直してくれました。

 

(……冗談じゃない!)

 本気で僕がその言葉を発したら、とんでもないことが起こります。

 すでにお察しのとおり、僕は普通の人間ではないからです。


できないんですか? どうして?
 口ごもる僕を、あなたは責め立てました。
それは……。

 それは、僕が言葉によって自然を操る者、「言霊使い」だからです。

 しかし、そんな荒唐無稽なことを口にできるわけもなく、しどろもどろに答えたその時です。

……?
……!
 公民館の中から、高らかにクラシック音楽が鳴り響きました。
(……ビバルディ『四季』……「春」?)
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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