隠しきれない秘密
文字数 527文字
いかに昔の言葉とはいえ、さっき聞いたばかりの言葉を復唱するぐらいの記憶力は持っています。
問題は、その結果にあったのです。
僕が「汝」という言葉を口にした途端、春の空は灰色に乱れ始めました。
小学生の頃、図工の時間に写生に出て、使った絵筆をすすいだ後の筆洗で絵の具が水に弄ばれているときのような、あの雲です。
正直、焦りました。
しかし、僕の発音はやはりおかしかったようです。
あなたはゆっくり言い直してくれました。
本気で僕がその言葉を発したら、とんでもないことが起こります。
すでにお察しのとおり、僕は普通の人間ではないからです。
口ごもる僕を、あなたは責め立てました。
それは、僕が言葉によって自然を操る者、「言霊使い」だからです。
しかし、そんな荒唐無稽なことを口にできるわけもなく、しどろもどろに答えたその時です。
公民館の中から、高らかにクラシック音楽が鳴り響きました。