私闘と決闘

文字数 409文字

(……豹真がこだわっているのは、それなんだ)

(……人を傷つける、言霊)

(……どうやって止める?)

知恵だよ。
(……簡単に言うけどさ)
 それも、僕にはないものでした。せいぜい、咄嗟に服を脱ぐくらいが関の山です。

 あれば、豹真とこんなことにはなっていません。理子さんを危険な目に遭わせることもなかったのです。

それがないのなら……。

(……また、引っ越しだ)

(……ごめん、父さん)


 最後の決断を迫る重々しい声に、父に済まないという気持ちで胸がいっぱいになりました。産まれてこの方、それを何度繰り返してきたか分かりません。

 僕は頭を垂れ、父の言葉を待ちました。


決闘しかない。
はあ?
 気の抜けた返事に、父は繰り返しました。
聞こえなかったか。豹真と決闘するんだ。
 別に我が身が可愛かったわけではありません。そこは信念というか美学というか、納得しないと先ヘは進めないところでした。
だってさっき、力じゃないって……。
そうだ、これは知恵だ。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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