何か気まずい春の朝

文字数 405文字

(……桜のつぼみが膨らんでる!)
 翌朝、公民館に向かう道のあちこちで植えられた樹の枝を見て気付きました。
(……もうすぐ、咲くんだ!)
 気が軽くなって自然と走り出したおかげで、早く着きすぎてしまったことといったら!

 それほど肌寒くもなくなった朝の空気の中で一人ぼっちでいると、そこへいつものトレパンにヤッケ姿の理子さんがやってきました。

……。
昨日は……どうも。
……。
 理子さんは背中を向けて、僕のほうを見ようともしませんでした。

(……怒ってるのかな?)

(……まあ、いいか。豹真から守れれば)

 僕も春の色に染まりかかっている朝の空を見上げていましたが、町内会長さんは、なかなかやってきません。僕たちは、無言のまま二人で並んで立つ羽目になりました。

(……気まずい)

(……何か話さなくちゃ、何か話さなくちゃ……間がもたない)

 そのとき、何か微かに聞こえてきたものがありました。
♪……。
(……理子さんが、鼻歌なんかを?)
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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