対決の日

文字数 522文字

 さて、それから数日、豹真は練習にやってきませんでした。大人たちが何とかつないだアンプからお囃子の音を流しての稽古が続きましたが、毎日のように理子さんは、大人たちを前に言い切りましたね。

問題の「なんじ」の辺りは当日のぶっつけ本番。ええんですよね、それで!
 地元の言葉で釘を刺されて、大人たちはちょっとの間、沈黙しましたね。
……まあ、日もないことやし。
……しゃあない。

 押しの強い提案に、感謝しています。

 良識があれば普通はやらないスケジュールで進める練習に文句をつける者はなく、神楽は当日を迎えました。

(……桜、満開!)
 僕は神主の格好で、鈴の房を手にした理子さんは、金色の冠を戴いた巫女の衣装に身を包み、既にイベントや屋台のテントで一杯になった役場の駐車場の端に設置された、割と地味な祭壇の上で出番を待っていましたね。
……あんまり、じろじろ見ないでください。
いや、賑やかだな、と……。
 日曜の四十万町は花盛りの桜と春祭りの人出で、春の祭典一色でした。
でも、そんな、ふうには……こっち見ないでください、やっぱり。
 理子さんはそう言いましたが、それこそ、豹真の愛するビバルディの『四季』にある「春」の曲がよく似合うだろうと思われる日だったのです。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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