面倒な大人づきあい

文字数 459文字

 その日の練習は、会場下見も兼ねて、町役場の駐車場に仮設した野外テントで行いましたね。

(……逃げたと思われるのもシャクだし)

 普通に考えれば、前日にあんな思いをすればもう行きたくなくなるものですが、不思議と抵抗はありませんでした。あのときの気持ちも、理子さんに初めて会った時と同じくらい、言い表す言葉が見つかりません。

 ただひとつ、説明ができるとすれば、それは豹真への意地だったでしょう。

ああ、よう来てくれた! ささ、今日もがんばろう!
おはようございます、頑張ってくださいね!
ええ、そりゃあもう! ねえ、理子ちゃん!
もちろん……この町に生まれ育った者として、当然のことですから。

 いちいち答えるの、面倒じゃありませんでしたか? 理子さんは。

 正直、僕の目にはあなたがたいへん不機嫌そうに見えました。

(……そりゃ、当然だよね)
 この町から出て、偏差値ランクの高い学校に通って、それからもっと先へ行きたいあなたとしては、たかが田舎町の神楽になどつきあってはいられないはずです。

 特に、絶対に上手く言えない僕の祝詞などには。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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