それぞれの抱えた事情

文字数 471文字

 ここへ来る前に父と交わしたそんなやりとりを思い出していると、豹真はまるで心を読んでいるかのような言葉を的確に返してきます。
知ってるんなら余計なことは言うな。俺も事情は知ってるから聞かない。
(……もったいぶっちゃって)
 彼の言う事情は深刻ですが、単純です。

 僕が言霊使いの力を隠しきれなかったために、周囲から気味悪がられておかしな噂が立ち、居づらくなったというだけのことです。

 それでも豹真は、鼻で笑いました。

よくあることだ……雨男だってだけで仕事を干された大工がいたっていうしな、昔は。
 その逆もあったといいます。雨乞いをしたり、もっと昔は船が海で嵐に遭わないように祈ったりもしていたようです。
 まあ、刀根理子とはうまくやるんだな。
(……そりゃ、まあ……君もせっかく助けてくれたわけだし)
 理子さんとの間に入ってくれたことには、彼の素性が分かったところで気づいていました。

 そこで僕は聞いてみました。理子さん本人には言えない事だったからです。

これ、どういうこと?

 僕はなぜ、いきなり祝詞を読まされたのか。

 それがずっとモヤモヤしていました。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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