豹真の本気
文字数 593文字
平日の昼時で、田舎町の道路にはそれほど人も車も通りません。誰の姿もないのを確かめてから、僕は傘を投げ出して豹真に頭を下げました。
豹真は慌てて傘を拾い、腰を折った僕の姿を隠すように差し掛けました。
相当うろたえていました。チャンスです。
年下の男の子に必死で頼んでいる僕の足元で、再び傘が路面に転がりました。返事がありません。身体を起こすと、豹真は、もう遥か遠くにいました。
今度は僕がうろたえました。さすがに傘を拾うだけの余裕くらいはありましたが、それこそ転びそうな勢いで追いかけます。
声が届きそうな距離まで来てようやく呼び止めましたが、背を向けたままのかすれ声に拒まれて、思わず立ち止まりました。
聞こえてきた一方的な通告に、そう直感しました。雨の中を走って消えて行く豹真を止めることもできないでいると、水飛沫の鳴り騒ぐ路面に吹く風に乗って聞こえてきたのは、悔しげな声でした。