理子の訪問

文字数 475文字

 その夕方のことでしたね。理子さんが僕を訪ねてきたのは。
(こんばんは……?)
 たぶん、玄関先まで来たところで、家の中が修羅場になっているのはお分かりになったでしょう。僕も、耳の奥で何か聞こえたとは思っていたのですが……。
和洋、お前な。
……。
 いつものように僕をまっすぐ見据えた父は、ゆっくりと言いました。いつものような怒声ではありませんでしたが、その分、怒りは肌で分かりました。
勝手に決めるなと言っただろう。
 豹真と私闘をやらかしたときと同じく、父は定時に退勤してきました。おそらく職場に、町内会長さんからの電話が入ったのでしょう。

 僕は再び父と差し向かいで正座し、説教される羽目になったのです。

 何でも、町内会長さんは町外の身内を当たってでも代役を探すと言ってきたそうです。しかし、父はそれを断ったのでした。

 あれほどダメだと言った父が。

 今度は、僕が辞めると食い下がりました。

今日でなくちゃいけなかったんだ。

 最初に叱られたときは、生返事で町内会長さんの話を受けてしまったのがいけなかったのです。でも、今度のスタンドプレーは急を要することでした。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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