恥も外聞もなく

文字数 420文字

……!
(……まさか!)
 豹真はと見れば、あのひきつった笑みを浮かべています。背中に悪寒が走りました。言霊「ほむら」が使われるときに感じる、あの感覚です。
樫井さん!

 僕と豹真の間にあるものを知らないはずの理子さんがたしなめにかかるほど、その場の雰囲気は悪くなっていました。

 しかし、これこそ僕の出番です。

すみません、何でか分かりませんけど、そこんとこだけ上手く出来ないんです。すみません、本当にすみません! 本番はしっかりやりますんで、どうか最初のとこだけ、どうか!
 僕は恥も外聞もなく、町内会長さんを含む大人たちひとりひとりに媚びて回りました。傍目からみれば、その場の空気に耐えきれずにテンパってしまった根性なしの高校生そのものだったでしょう。
……。
……。
……。
……。

 豹真を含め、理子さんも、町内会長さんも、その場にいる全員が引いてしまったことが、肌で感じられました。

 しばらく誰も口を開かず、部屋一杯に気まずい雰囲気が充満していました。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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