一触即発

文字数 454文字

(……豹真の勝ちだ。理子さんの前で、僕は祝詞を上げられない)

 しかし、僕を心配してくれた理子さんに、「邪魔だから帰れ」とはとても言えませんでした。僕は、押し黙ったまま、棒立ちになっていたのです。

聞えなかったのか? 帰ってほしいってさ、檜皮センパイは。
それ、私の言葉ってことにしてくれませんか?
 僕に代わって口を開いた理子さんに、豹真は目を剥きました。
……何?
忙しいんです、私。受験生なんです。いいんですよ、帰っても。そのときは、神楽もやりません。母が何と言おうと。樫井さん、責任とってもらえますか?
 舌鋒鋭く責め立てる理子さんを前に、豹真は大岩の上に立ちあがりました。それはまるで、低い身長を補おうとでもするかのように見えました。
俺に、何の責任があるって?

 理子さんには分かるはずもありませんでしたが、その朝の爆発事件に限っていえば、豹真は図星を突かれた形になります。物言いは偉そうでしたが、声は震えていました。

 さらに、僕の身体には、既にあの悪寒が這いこんでいましが、理子さんを止める術はありませんでした。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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