樫井豹真の晴れ舞台

文字数 394文字

 始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣らしたまふや、汝この国に来してひととせ、ふたとせ、長きにわたれば、とこしえの恵みを賜はん。
 受けたまへ、受けたまへ、我みとせ、よとせ、とこしへに、日御子(ひのみこ)の恵みにて、五種(いつくさ)の穀(たなつもの)やすらへん。
 そこで語り始めた理子さんの笑顔は、まるで別人のもののようでした。照明の蛍光灯をいつ交換したのか分からないほど古ぼけた部屋が、あのときだけふわりと明るくなったようにさえ思えたものです。
……。
 結局、あの日は朝から引っ張り出されただけで、ほとんど何もせずに半日が潰れました。気が付くと公民館は昼前の日が差し込んでいたにもかかわらず、また元の薄暗くて辛気臭い場所に戻っていました。
ああ、すまなんだなあ……ええ、ええ、すぐできるようんなるで。
 そのとき、僕はさっき見た理子さんの笑顔をぼんやりと思い出していました。
(……理子さん?)
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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