苦渋の決断

文字数 424文字

 楽しそうな笑い声が返ってきました。心からの笑いだったでしょう。あの甲高く耳障りな声は、今になっても忘れることができません。

 豹真は舞い上がっていました。生まれて初めての、言霊使い同士の戦いに。

さあ見せろ、お前の言霊! 使わなければ焼けて死ぬぞ!
 僕のはもともと黒いジャージなので目立ちませんでしたが、あちこち焦げているようでした。豹真はもはや正気とは思えませんでしたが、それでも僕の頭の中で引っかかっていることがありました。

(……どうして言霊が動かないと、焼けて死ぬんだ?)

(……僕の力を見せれば、やめてくれるのか?)

 そう考えて、一つだけ、思い当たったことがありました。

 僕の言霊の効果のうち、豹真が見て知っている可能性があるのは、理子さんを前にしたときの、空を覆う暗雲しかありません。

(……もし、そうなら勘違いもいいところだ、明らかに!)
 僕の力は、雨風を起こすことではありません。火をつけられても、消せないのです。
(……やむを得ないか)
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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