特訓が始まる

文字数 355文字

じゃあ……。

 その場の空気を断ち切るように、理子さんは手を叩きました。

……?
歌ってみて。
……!
 今度は僕が面食らいました。歌はあまり得意ではありません。カラオケに行ったことさえないのです。

 僕がどぎまぎしていると、理子さんはゆっくりと手拍子を取りながら、理由を説明してくれました。

好きなリズムで覚えたら、きっと構えないで言葉が出ると思うんです。

(……ああ、気にかけてくれたんだ)


 相変わらず抑揚のない声でしたが、そう言ってもらえたことが嬉しかったのです。でも、変といえば変ですよね、僕のほうが先輩なんですから。
♪~……。
 そこで、僕は理子さんの取ったリズムに合わせて歌い始めました。

 だんだんと気分が乗ってきて、歌い終わったときに聞こえた小さな拍手で初めて、僕は我に返りました。

……じゃあ、次、行きましょうか。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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