先を越された決闘状

文字数 413文字

 その夜のことです。
ポストに入ってた。
 残業を済ませて帰ってきた父が渡した封筒の中には、裏の白い新聞広告を切って作ったらしいメモが入っていて、こう書いてありました。
「神楽の最中の決闘。手加減無用のこと」
(……先、越された)

 神楽が終わるまで、僕はここを離れるわけにはいきません。決闘を申し込んだら、あの豹真のことです。僕の事情なんか気にするわけがありません。

 それなら言霊を使えない臆病者と思わせておいたほうが、まだマシです。決闘は、神楽が終わってから申し込むつもりでした。

(……完全に、裏目に出た)
……。
 父は封筒について何も聞かず、黙って正座しました。僕も父の前に座りました。

メモは、膝の前に伏せておきました。

見ますか?
 言霊使いとして初めての決闘に身の引き締まる思いがして、言葉遣いも改まりました。
いいや。
 僕に決めさせる以上、聞く必要もないのでしょう。

 すると、正座したのはなぜか?

 その答えは、父の質問にありました。

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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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