理子の想い
文字数 508文字
あのとき、もう怖くはありませんでした。怒りも情けなさも、どこかへ行っていました。
沸き起こる気持ちを抑えなくていいのが嬉しかったということもありますが、そのとき、自分の身体に火が付いた理由を考える余裕ができたのです。
そう思ったとき、涙があふれてきました。それで余計に雨がひどくなったかとも思いますが、過ぎたこととして、どうか許してください。
檜皮さんが神楽を断ったと知ったときは、胸が痛みました。
あの夜道を一緒に歩いたとき、そして檜皮さんが神楽の練習に来てくれたとき、私の心を縛っていたものがほどけていくような気がしました。
冷たくしてごめんなさい。ああしないと、神楽の前に春の嵐が桜の花を全部吹き散らしてしまうかもしれないと思ったのです。