春を告げる歌声

文字数 411文字

……。
……。
 思わず振り向くと、理子さんも僕をちらっと見たところのようでした。慌てて目をそらしましたが、理子さんも多分、そうしたんでしょう。
それ、なんて曲ですか?
♪~。
 曲名は答えずに、理子さんは詞を付けて歌い始めましたね。

 英語でしたが単純な歌詞だったので、聞いただけでだいたいの意味は取れました。

(……つらく寒い冬の果てに、春の陽が差してくる)

(……一陽、来復。……四字熟語で言えば)

 そこへ町内会長さんが公民館の鍵を持ってとぼとぼやってきましたが、僕たちを見るなり、両腕を広げて駆け寄ってきました。
あ……ああ!
……!
 もっとも、ハグしようとした瞬間、理子さんは要領よくその腕をすり抜けたので、酒臭い身体で抱きしめられたのは僕一人でしたが。

(うわっ……ぷ!)

(察するに……ヤケ酒で二日酔い、ってとこかな?)

 大人たちがいつものようにやってきて練習が始まると、知らないうちに来ていた豹真が横笛の音を流していました。
……。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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