歌と、川の流れと
文字数 399文字
声を低めて尋ねられたので、僕が知らないうちに何か悪いことでもしているかのような錯覚にさえ捉われました。
あまり音楽には詳しくありませんが、慌てるとなかなか思い出せないものです。おまけに理子さんは、うつむき加減に目を閉じて、額に手を当てています。
僕は記憶を探るヒントを求めて、あちこち見渡してみました。
川のほとりの山、町を挟んだ反対側に連なる山並み、うっすらと雲の流れる春先の青空、殺風景な河原……。
野外学習に来た小学生のように手を挙げる僕に、理子さんは、たまたま虫の居所が悪かった引率の先生のように不愛想な返事をしましたね。あれは心に突き刺さりましたが、僕は構わず尋ねました。