歌と、川の流れと

文字数 399文字

どんな曲が好きですか?

(……え?)

(……ちょっといきなり、何の話?)

 声を低めて尋ねられたので、僕が知らないうちに何か悪いことでもしているかのような錯覚にさえ捉われました。
どんな、曲が、好き、ですか?
 あまり音楽には詳しくありませんが、慌てるとなかなか思い出せないものです。おまけに理子さんは、うつむき加減に目を閉じて、額に手を当てています。
(……もしかして、何か、怒ってる?)
 僕は記憶を探るヒントを求めて、あちこち見渡してみました。

 川のほとりの山、町を挟んだ反対側に連なる山並み、うっすらと雲の流れる春先の青空、殺風景な河原……。

あの!
何ですか?

 野外学習に来た小学生のように手を挙げる僕に、理子さんは、たまたま虫の居所が悪かった引率の先生のように不愛想な返事をしましたね。あれは心に突き刺さりましたが、僕は構わず尋ねました。

この川はもともとこんなに細いんですか? 河原がこんなに広いのに。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色