最小限のトラブル回避

文字数 505文字

始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣らしたまふや、な……。
 雷を起こすまいとすれば、どうしても「なんじ」はまともに発音できません。最も影響の小さい形で読み上げなければならないので、ダメ出しは避けられないのです。
……。
……。
……。
 前の日と同じところでつっかえることで、理子さんも大人たちも相当イラついているのは分かりました。
……すみません。
 当日用のアンプまでは設営できないので、横笛の音は、僕たちが練習しているそばで豹真がラジカセから流していました。
……俺もヒマじゃないんだがな。
……まあまあ、豹真くんも。

 練習を滞らせているのは申し訳ないので、僕も対策を考えました。

始めさもらへ、始めさもらへ、日御子の宣らしたまふや、ぬし……。
 なんとかごまかせないかと、「汝」を、同じ2人称の「ぬし」に置き換えてみましたが、それは認められませんでした。

 特にこだわったのは、理子さん、あなたでしたね。

 別に責めているのではありません。叱られても当然のことです。

 まじめにやってくれませんか、檜皮さん。
 はじめて名前で呼んでもらえて、なんだかくすぐったい気持ちがしましたが、理子さんの言葉は辛辣で、心が折れました。正直。
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登場人物紹介

檜皮和洋(ひわだ かずひろ)

 父と共に不思議な力を秘めて流浪する少年。頭はそこそこ切れるが引っ込み思案で、自分も他の人も傷つけるまいという思いから、常に重大な決断を回避しようとする癖がある。

 しかし、追い詰められて発する力は地球の大気をも震撼させる。

樫井豹真(かしい ひょうま)

 超自然の力と屈折した思いを秘めた、小柄ではあるが危険な少年。冷酷非道に見えるが、それは自分の力への誇りと、同じ力を持つ者たちへの熱い思いによる。

刀根理子(とね りこ)

 冷淡な言葉の裏に、激しい上昇志向を秘めた少女。自分には厳しいが他人にも厳しく、たとえ年長者でも、直面する問題から逃げることを許さない。物静かだが、時機を捉えれば、やるべきことをやり遂げる。

 ただし、最小限の手間で……。

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