92話:古城フィンディルでの邂逅!エディールと黒い皇帝の猛追!!(後編)
文字数 4,108文字
どうでしたか?
これが私の今までが詰め込まれた痛みや悲しみです。
エディールさんも両親に散々と虐げられて来た当人、もちろん
私の思い、当然の如く受け止めてくれますよね……
おい、エディール。口から血出てるぞ……
そんだけ皇帝の抱えるモノが凄絶だったんだな。
(皇帝の正体って
″あのお方″ だったんですね……
それにしてもこの記憶は想像以上……、辛すぎます。)
エディール……、もう次の計画を始めなければいけない。
とりあえず俺のハンカチを貸してやる。さっさと血を拭い取れ……!
(黒い球体……。と言う事は過去を知った
エディールもまた皇帝の正体に気付いたか。何とかしなくちゃいけないな。)
【前回のあらすじ】
これはまだエディールが一等地ヴィバールにあるエバスの屋敷に出向く前のお話。
次々に良心を取り戻されて行くマイティーダークのメンバー。
どれも見過ごす事が出来ず、遂に皇帝やアンドルディシアに
招集を掛けられてしまい、小町「エジェテール」の崩壊ぶりを
見学しながらフィンディルへと出向くけれど……、
そこで待ち受けていたのは、
皇帝の両手から出した痛みや辛さが詰め込まれた ″黒い球体″。
口から血を出す程、皇帝の過去がどれだけ酷な物かと知らされてしまったと同時に
エディールは正体まで知ってしまった……
エディールさん、大丈夫ですか?
まだ息が荒いですよ……。
心配掛けてすみません……
私は大丈夫です。この場で倒れているようじゃ
マイティーダークのリーダーなんて務まりません……
皇帝の顔を立てられるように精一杯尽くすだけです。はぁ…、はぁ……
エディール、無茶だけはするな。
何だかんだ言ってお前の事、心配なんだ……
兄上にそんな風に言って貰えるなんて、嬉しいです……。
私が今やるべき事は……
ローウェンさん……ですよ、エディールさん。
まずは一呼吸整えて下さい、話はそれからでも大丈夫です。
とくと皇帝の痛みを知ってしまった為、
今までに味わった事が無い苦痛に襲われてしまった。
半分体力を奪われてしまい、いくら禍闇のスキルを持つエディールでさえ
目眩や吐き気に襲われる程、抱える痛み・苦しみに自分の過去と重ねてしまい、
心の中で ″辛い″ と思いながら目を瞑ってしまう……
何とか落ち着きました。
皆さん、ご迷惑かけてすみませんでした……
貴方に無茶な事をさせてしまった事、深くお詫びします…。
計画を成功に導く大切な仲間の1人として
不快にさせてしまいました……
もちろんです。確か聞きたい事は……、
ローウェンさんでしたよね?
分かりました。ただ、話すと長くなりますので
皇帝の退屈にならないように、出来る限り要約してお話させて頂きます。
更に時は数カ月前……
研究員リオルドから頼まれ
リリカルラビットのとある研究材料の為に、クロスウッドにある重要施設を1つ1つ
エディール自身が自ら足を運んで訪れていた帰り道に見つけた場所こそ、旋律の館。
食い入るように旋律の館の中へ黙って入り込むと
その大広間に当主と思われるヴィーバと息子であるラディーの姿を確認する。
もうっ! 父さんのバカ!!
ちゃんと譜面通りに弾いたのに何処が間違っているんですか?
指摘してくれないと分かりません!!
本当に譜面通りに弾いたのか? 前、言っただろ。
ここは遅いスピッカートで弾かないと意味が無い……。少し速かったぞ……
弓先で跳ねさせると、弓のコントロールが難しくなり弾く場所もずれ易くなるだろ?
だから、一つ一つの音の音質がばらばらになってしまう。要するに……
スピッカートの速さを変えるんだったら、
弓の跳ねる高さを変える事。高く跳ねれば遅いスピッカートになるんだ。
後はラディ―の練習次第でもっと上手くなると思うぞ!
お取り込み中の所、申し訳ございませんですけど……
さっきからノックを何度もしているの聞こえていませんか?
私はエディールと申します。美しい音色が外に響き渡っていたので、
少し興味があってお邪魔させて頂きました。話を聞いていると
お二人はバイオリン奏者なんですね?
はい。父さんはクロスウッドでは知らない人が居ない程のヴァイオリニストです!
少しでも近付きたく常日頃頑張らせて頂いてます。
クラシックは素晴らしいです。
ただ、今の私にはその良さが分かるとでも到底思えません。
こんな所にリリカルラビットの研究素材があるとは思いもしませんでした……
普通に振舞っていたエディールの眼差しが突如と変わり、
一番近くにいたラディーの右目に深く刺し傷を負わせてしまい
バイオリンが弾けない姿になってしまった……。
父であるヴィーバの愛がある厳しかった練習時間も、今この瞬間で全て無駄になってしまう……
う、うぅ……。
い、痛い。な、何でこんな事するんですか?
さっき言いました……、リリカルラビットの研究素材を見つけたと。
ヴィーバさん、さっさとここから立ち退いてくれませんか?
私の忠実な傘下がこの御宅の調査をさせて頂きます……。
愛する息子を傷つけて
よくそんな事言えますね……!
成長途中のラディーを見守るのが私の役目。
貴方はそれを無駄にした事分かってるんですか!?
くっ……!
しかしこの旋律の館メロディシアの当主はこの私。
先代から受け継がれたこのメロディーを守る義務があるんだ。だから……
そうか。ヴィーバ……、貴方の背後に
さっきから私の傘下であるローウェンがいる事気付いていたか?
気配にも感じられないのによくそんな強気な発言出来たな……。
突如と現れたエディールに言われてようやく
背後にもう1人、彼の仲間であるローウェンという男性の気配に気付く。時は既に遅し……
【ローウェン】
…………!!!
よう。俺の気配を全く感じないなんてダメだな。
エディール様、貴方の指示通りに
ヴィーバを捕らえる事に成功致しました……。これで良いんですよね?
大人しくしていた方が身のためだ。
エディール様は皇帝に認められた闇のリーダー。
いざとなったら息子のラディーを仕留める事が可能。
どういう事か分かるだろ?
ご苦労様です、ローウェンさん。
やはり貴方を連れてきて正解でした……
では、言った通りの任務を成功に導くように頑張って下さい……。
私は貴方を連れて行くとしよう……。
ラディー、宜しくな。
は、はい……。宜しくお願いします。
私は何処に連れて行かれるんですか?
ヒルハイドタワー……、幹部マイティーダークの巣窟だ。くれぐれも下手な真似はしないように……
それ以降エディールはラディーを連れてヒルハイドタワー。
そして、ローウェンはヴィーバを連れて一等地ヴィバールにあるエバスの御屋敷に足を運ぶ事に。
それぞれの任務を成功させる為に……
****
そして現在――。
ここから少し離れた遥か上空、
1台の航空機がクロスウッドに向かっていた。
コントロールルーム――。
デスクに置かれていたのは複数枚の写真と手引書。
それを食い入るように見ていたのは、他大陸からやって来た
選りすぐりの警察機動隊「セクションゼット」。
【????】
と言う事で、当機はまもなくクロスウッドに到着します。
まさかフロスト所長から直々に私達を選んでくれるなんて、光栄ですね。
私達は期待に応えないといけませんよ、良いですか?
【????】
ああ……。俺はヒルハイドタワーで屯っている
マイティーダークの壊滅、そしてエディールの計画を阻止。
俺等セクションゼットが動き出したなんて、
到底誰も思えないだろうな。だろ、アッシュ?
【アッシュ】
私達は選りすぐりなんです……
それ位当たり前ですよ。そんでもって、私はアンドルディシアの良心を取り戻す事。
ただ、いくら身体を鍛え上げていても、拳を揮うのは間違ってる。
トランド所長のモットーを胸に任務を成功させるぞ。準備は良いか、フォザード?
【フォザード】
ああ。拳を揮わないのは肝に銘じているから安心しろ。
鍛えている理由? そんなの個人の自由だからな……
ただ1つだけ言って置くぞ。俺は……
エジェテール……、古城フィンディルの所有者の
姓だ。
皇帝が城内に眠る ″アレ″ に目を付けられたら、クロスウッドは滅ぶ。
だから奴等はタナトスを監禁し、リリカルラビットを必要としているんだ……。
皇帝は
リリカルラビット単品を必要としてない。
4匹揃っていないと意味を成さない。今だから言うぞ……心して聞いて欲しい。
これは今までトランド所長にも話した事が無いからな!
何言ってるんですか、フォザードさん?
クロスウッドで沢山の御方が彼等の悪事を暴こうとしてるんです。
出来る限り情報は多い方が良い。お願いします!
皇帝の真の目的は……
夢をぶち壊された皇帝のクロスウッドへの復讐だ。
それともう1つ言わせてくれ……
****
ここは古城「フィンディル」最上階である5階――。
頑丈、そして幾多にも謎が仕掛けられている扉の前に佇む皇帝……
その時、頑丈に嵌めてあった皇帝の仮面が物静かに床に敷き詰められた
赤いカーペットの上に落ちて行く……
静寂に包まれる中、それぞれの思いが交錯し出す。
皇帝の計画を阻止する為に、いよいよ他大陸から警察機動隊セクションゼットも出動し
物語はいよいよ佳境へと動き出す……
次回へ続く。
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