85話:熱き男エンディアの涙!未熟者と呼ばれた過去への入り口!!(前編)
文字数 3,102文字
え、エンディア様……!
お前らしくないぞ。お願いだから立ち上がってくれ!!
俺一人じゃローウェンに勝てない。奴は皇帝やエディールの仲間……
もしかしたら実力は俺達より上かもしれないんだ。
執事のローウェンは虫嫌いのエンディアに向かって無表情で
コックブロット、現実世界で言う所の「ゴキブリ」を投げ付ける。
彼は常に冷静で洞察力に優れている為、
いくら目の前に身体がデカい人でも絶対に
屈しない性格をしている……。
懸命にエバスとハディーサがエンディアの身体を揺さぶるけれど
彼らしく冷や汗を掻きながら気絶している為、起きる気配が全く無い……
おいおいおい、そんなトコで寝てると風邪引くぞ!
さすがのマッチョ馬鹿も虫には弱かったと言う所か。
残念過ぎて反吐が出るな、なあ、ハディーサ……
結局、これがお前のチームのリーダーなんだぞ。笑いしか出ないだろ?
うるせえよ……、今の言葉撤回しろよ!
お前なんかよりエンディア様の方が数倍強いんだ。
それに今も言ったけど、彼は虫嫌いになった過去がある……
良い加減にも程があるぞ、起きたら絶対に謝罪しろよ!!!
こんな所で負けないのが俺達のリーダーなんだ。
じゃあ、ここで寝転がってるのは誰だ?
お前のメンバー、エンディアだろ……! 無様過ぎた醜態晒しやがって……
そんな事より、俺がこの豪邸に来た訳聞いてくれないか?
ヴィーバの捕獲監禁? ロックダスターの奪取?
そんなの二の次に過ぎないからな……。
俺が此処に来た目的、それは……
エディール様、そして皇帝を裏切ったエバスを
悪に引きずり落としてそのまま安楽死させる事……。
お前の笑顔もこれで御仕舞いだ。闇に落とすのは出来ないけど
闇の中を蠢く虫の側で這い蹲っている悪夢でジワジワと追い詰めてやるぜ。
さあ、元スカラダーク首領エバス。苦しめ……!!!
無慈悲な執事ローウェン、その様子は見るに堪えない……
言葉も態度も全て暴力的で、どんどん歯止めが利かない状態のまま、禁
忌のスキルを手にした時の独特なオーラを纏い
計画を邪魔したエバスに彼の手が差し迫ろうとしていた。
ふぅ…、ふぅ……。く、苦しいです。
な、何ですか、この夥しい(おびただしい)悪のオーラ。
それに奥の方から何かが私の元に……
ぐっ、や、止めて下さい……
気持ち悪いし、吐き気がします。こんな虫の大群なんかで……
うっ……、ローウェン、貴方もしかしてスキル所持者ですか!?
ご名答。俺のスキルは
轟虫(ごうちゅう)。
禁忌スキルの1つだ。ゼルシードから頂いて以来
邪魔モノは全員虫で蹴散らしてきた。そう、逆らう奴はな……!
お前にしか見えない虫を招集したんだ。光栄に思うがいい……
もう悪には屈しないと決めたんです……
私は今沢山の人の支えがあってここに立てています。
ローウェンさん、貴方エンディアさんを……
馬鹿にしないでくれませんか?ここは私が身代わりになります。お願いです、エンディアさん。
貴方の熱いハートもう1度見せて下さい……!
そうです。ここが頑張り所ですよ!
私の主人がここまで身体を張っているのは本当に久し振りに見たわ。
エバスの頑張りはきっとエンディアさんに届いている筈。
彼ならきっと分かってくれています。ですよね、ハディーサさん?
もちろんだ。
エンディア様が今ここに立てているのは全て父親のお陰なんだ……。
****
ローウェンに虫を投げ付けられ大広間に
敷き詰められた赤いカーペットの上で気絶しているエンディアの夢の中。
ようやく目を覚まし周りを確認すると、どこまでも広がる空間に
ポツン とただ1人で佇んでいた事に気付く。
はぁ…、はぁ……。
ここは何処だ。暗くて何も見えねえ。
確かローウェンに虫を投げ付けられ、あ、そうか……
俺は完全敗退したんだ……。情けない所ハディーサ、
そしてエバスさんに見られてしまったな。悔しくて涙が出そうだ……
自分の情けなさ、そして味わった事がない敗退の2文字に改めて痛感させられていると
突然、そこにさっきまで無かった自分の子供時代の影が
ホログラムのように映し出されて行く。
子供時代の俺か……。あの頃はただ1つの趣味として
虫捕りをやっていたんだよな。あの頃に戻れるなら父さんに謝りたい……
****
今から数年前、ここはまだ平和な小町「エジェテール」。
後にオルームの手によって殲滅されてしまい、人々から忘れ去られ、地図から消えてしまうけれど
以前は普通に自然に溢れていて、クロスウッドで唯一様々な虫と戯れる事が出来る場所だった。
チーム「カインドフォース」のメンバー全員がこの町出身――。
そしてエンディア宅は森林の近くで生まれ育った。この頃はまだ
ガタイも良くなく、食と遊ぶ事に夢中だった。
【アルヴァ】
また今日もか……。エンディア、
たまには父さんと一緒に家で読書でもしないか? あ、それか……
トレーニングでもやるか?
お前にも色々教えたい事があるんだぜ……
別に良いよ。読書もトレーニング、どっちも興味ないし……
そうか。なら仕方無いな……
いっぱい捕まえて父さんに見せてくれないか?
****
息子を笑顔で見送った後、縁側で母親のアイリスと
お茶を飲みながら今後のエンディアの事を話し合っていた。
エンディアに避けられているようでならない……
何で虫捕りばっかりで、俺の事構ってくれないんだ?
もっと色んな事を教えてやりたい。成長途中の息子を応援するのは父親の役目だからな!
【アイリス】
あら、別に良いじゃない?
虫捕りだって立派なエンディアの趣味よ。
好きな事を維持してやる事は貴方のトレーニングの姿勢と一緒よ。
ちゃんと息子の言葉に耳を傾けないと……ね。
俺、エンディアに甘えすぎなのか?
だとしたら、何とかしなくちゃいけないな……
あら、怒ったらダメよ。
エンディアに強く逞しく育って欲しいんだから……。でしょ、貴方?
ほら、そういう時は甘いお菓子を食べると良いわ。
ちょっと散歩に行ってくるけど、エンディアが
帰って来ても強く当たらない事。分かった?
****
ガラガラッ
夕方になり玄関の戸を開ける音を耳にして
エンディアが帰って来た事に気付き、急いで和室から駆け足で向かうと
そこには行く時に着ていたTシャツに穴が開いていたり、少し顔に傷が付いていたりと
無茶な事をしてまで虫を採取しようと頑張り過ぎた彼が
少し涙をうるませた状態で佇んでいた……
バチンッ
エンディアのボロボロになった姿に
いくら趣味である虫捕りでも無茶した事に対して
息子に向かってビンタをしてしまう。
この未熟者……!!
1匹も捕まえられなかっただと。
エンディア、話がある。ちょっと和室に来なさい!
何でブッたの?
1匹も捕まえられなかったから?
そういう日もあるよ。明日はきっと捕まえるからそんなに怒らないでよ……
そういう事を言ってるんじゃない!
とりあえず、明日から虫捕りはしなくていい……
お前にびっちりトレーニングをつけてやる。いいな?
″このエジェテールにはどんな虫がいるんだろう?″ と
興味本位で始めた大好きだった虫捕り、要するに彼の趣味も
ボロボロになって帰って来た姿を見て、父親アルヴァは息子に向かって「未熟者」と言い放ってしまう。
初めて反発をしてしまい、玄関の扉を強く開け
父親の前から逃げ出すかのように、何処かに立ち去ってしまう……
そう、エンディアが虫嫌いになる1時間前の出来事だと知らずに。
後半へ続く……
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)