102話:エジェテールとエディール!遠き日々の過去!!(中編)
文字数 5,085文字
迷子になっちゃった……
あれ程父さんに森の中は立入禁止って
言われてたのに。やっぱり……
ダメだな……。もう家に
帰りたくない。このまま何処か
遠くに行った方が良いのかな?
いや、そんな事は無い……
こっちにおいで。一緒に遊ぼうよ!!
前回(前編)のあらすじ
ヒルハイドタワーの最上階で口から
血を流しながら倒れてるエディール。彼はふと
昔両親であるエシャールとシャノンの2人と過ごした
記憶を呼び起こしていた。
しかし、彼の記憶は凄絶。
父親に尻を叩かれたり、裕福じゃない為
服を脱がすような子供にとっては悪影響な躾をしていた。
全てがイヤになり、エディールは家を飛び出し
森の奥地へと入って行ってしまう……
****
ここはエディール宅――。
出掛けていた母親のシャノンが
エシャールに向かってきつく叱っていた。
【シャノン】
ちょっと、貴方!
いつも叱ってばかりでエディールが
悪の道に走っちゃったらどうするのよ!!
卓袱台に置かれた
湯呑みの中身を何の考えも無しに、妻に目掛けて掛け始める。
ちょっと熱いじゃないの!!
これでも一家の大黒柱なのかしら!?
う、うるさい!
どんな躾しようが私の勝手。
シャノンは黙ってろ。お前は零れたお茶の
片付けだけして居ればいいんだ……!!
ふーん。だったらさっき
来てくれたエンディアさんにおっしゃった
"友達になってあげてくれ" はどのように説明するんですか!?
まさか……、その場
凌ぎなんて言わないわよね。
自分で言った言葉位、最後まで自覚を持って下さい!
それが大黒柱の役目って言うモノでしょ?
母は強し……。
守るモノがあるからこそ、強くなれる。
弱く見えても、生まれてきた子供達を守る為に
強さを発揮できる存在。
怒り散らすエシャールにもめげずに母親を務めて来た。
それは家族を支える事だけでなく、
愛する事も彼女は心の支えになっていた。
****
その頃、エディールは自分の居場所を探す為に
森の最深部まで来ていたけれど、いつの間にか
自分が通って来た道が分からなくなってしまい、迷子に……。
そんな時、彼の耳に聞こえた
"一緒に遊ぼうよ!"。その声に釣られながら
エディールがやって来た場所は、少し離れた場所にある
小さな溜め池、雰囲気のある休憩スペース。
そこに1人の少年がベンチに座っていた……。
やっと来てくれたね!
君が来るの待ってたんだよ……。
【ヒョード】
俺はヒョードって言うんだ。
名前聞かせてくれない?
うん。私の名前はエディールって言います。
初めて会う方なのにこんな
Tシャツ姿ですみません……
いや、全然大丈夫だよ。
色々大変なんですね……
俺でよければ相談相手になりますけど。
いや、初めて会った方に
私の相談を聞いて貰うなんて出来ません……
心遣いだけ受け取って置きます。
でも、抱え込んじゃダメですよ。
考え方はストレスと一緒です。溜め過ぎると
自分自身がコントロール出来なくなります。
彼の名前はヒョード。
あまり自分の事を言おうとしない中、
Tシャツ姿で居る事に何かを察し彼に相談を持ち掛ける。
まんまと彼の策略に掛かったかのように
エディールは家庭環境を話し始めると
さっきまでの明るい表情とは裏腹に
少し暗い雰囲気を醸し出していた。
ひょ、ヒョードさん……。
顔色が悪いですけど大丈夫ですか?
あっ、ゴメンね。何でも無いよ……
こっちの話だからエディールさんには
関係ないから安心して!!
そうなんですね。そう言えば、
ヒョードさんは何でこんな場所に居るんですか?
私と一緒で帰る場所が無いとか……。
いや、帰る場所はあるんですけど
あまり家族と上手く行って無く、
唯一味方してくれるのは兄と父親だけでして……
気分を晴らしたい時はいつも此処に来るんですよ。
それとエディールさん。あれを
見てくれませんか?
ヒョードが右手で指した場所こそ
後に皇帝、アンドルディシアの一味が
キシャーロック一族の隙を付いて制圧した古城 "フィンディル"。
あっ、フィンディルですね。
確かキシャーロック一族が所有している城だと
聞いたことがあります。うっ……
私もああ言った裕福な場所に
住んで見たかったです。あそこで家族と
一緒に楽しく過ごせたら今の自分は居ないかなと……
でも、何かあったら手を出す両親なんて
そんなの家族なの? 少しでも憎んだ事ないの?
憎んだ事あるよ……
だけど平気なんだ。
私なんかに怒る資格なんて無いですし。
突然、エディールの身体から冷や汗が止まらなくなる……
それもその筈。ヒョードの居る場所の背後にある
少し離れた木陰から二人のやり取りを
ずっと黙視していた父エシャール。
お前の居場所ぐらい分かるに決まってるだろ。
ちょっと話がある。付いて来い……
話は聞かせて貰った。
エディールが世話になったな。
少しでも構ってくれた事感謝するぞ。
ただ、ここから先は私とエディールの問題だ。
君も早く帰った方が良いぞ!!
これは直感に過ぎないけど、
近々エジェテールを筆頭にクロスウッドで
何かが起きる気がする予感がするんだ……。
用心に越した事は無いだろ?
そうなんですね。
教えてくれてありがとうございます……
じゃあ、エディールさんまたね!!
(どうせノーって言うに決まってるんだ。
こういう機会だから、勇気振り絞って言ってみたけど……)
何言ってるんですか?
もう友達じゃないですか!
ずっとエディールさんの口から言ってくれるの
待っていたんだよ。これから宜しくね!!
こちらこそ宜しくお願いします。
じゃあ、ヒョードさん……また何処かで。
2人は接してくれたヒョードに
深々とお辞儀をしてこの場を後にする。
そして勇気を以って友達になろうと
振り絞って言った事に関して父親の評価は高い。
こう見えて控えめ、且つ引っ込み思案――。
もしかしたら割と乱雑な躾をしているから
"どうせ、私の事嫌いなんだろう" と
エシャールからしたら思われているかもしれない……。
そしてこのクロスウッドで
何かが起ころうとしている事もいち早く気付いていた。
父親の乱雑過ぎる性格にエディールの心が少しでも
恨み、因縁があった為、後に闇と化し暴走する事も
今は全く知らずに……。
****
現在の時間帯、夜――。
エディール宅……
もうっ、あの2人
何時になったら帰ってくるのよ!
せっかく作った夕飯が冷めちゃうじゃないの……。
母さん、エディールはきっと大丈夫だよ……。
必ず父さんが見つけて帰って来る筈。
先に飯食いながら待ってようぜ。
ルディース、お前はどうだ?
そうですね。きっと母さんが作った
美味しい夕飯の匂いに釣られて帰って来ますよ!
そうよ。息子達の為にいつも腕によりを
掛けて作ってんのよ。美味しくなくちゃ困るわ!
(エディール……、今日は
貴方の大好きなグランツスープよ。
無事に帰って来てね!)
****
ここはエジェテール、森の近くにある
テッドリッジパーク――。
森の最奥地から戻って来た2人は先に
家に帰る事なく、エディールがまだ幼少期に
一緒に遊んだ公園にやって来ていた。そこでエシャールは
何故そこまで厳しい躾を
していたのか訳を話し始める……。
エディール、この場所懐かしいだろ……。
お前がここで私に何を
約束したか覚えてるか?
そう言って今まで何人友達出来たんだ?
怒らないから正直に言ってみろ……。
…………。
さっき会ったヒョードさん1人だけです。
やっぱり私には友達作りなんか
向いてないんです。
公園にあるベンチに座り、
久し振りに面と向かって話していると、
ちょうど家に帰ろうとしているエンディアが
2人を見つけ、「おーい!」と笑顔で彼等の元にやって来た。
ようやく会えたぜ。
俺の名はエンディアって言うんだ。宜しくな!
エシャールさん、先程は失礼しました。
えっ、父さん……
エンディアさんの事知ってるんですか?
つい先程レイディアとルディースの2人が
彼を連れて自宅に訪問して来たんだ。ちょうど
入れ違いだったから覚えてないのか……
エディール……、今度は私が
見届けてやるからエンディアに
さっきヒョードに言ったみたいにやってみろ。
エディール……!
いちいち固くなるな。友達作りって言うのは
もっとラフにやって良いんだ。相手は好意があって
近付いて来る。エンディアだってその1人だ!!
で、でも……最初に会うお方だから
粗相の無いようにと……。
確かにそれは大切だ。しかし
エンディアはお前より年齢が下。目上の人
だったら丁寧に振舞うのが基本だけど彼はどうだ。
楽しく友達作り出来てるだろ?
…………。
幼い頃の私はエディールそのもの。
丁寧になり過ぎた結果、堅苦しい
イメージがあって周りから嫌われてたんだ。
友達が出来るまで時間が掛かったのもそう。
エディールには沢山の友達を作って欲しいんだ!
ずっと痛感していた事が、いつの間にか
お前達に厳しく接してしまっていた。
お前が立派な大人になるまでは、
培った事全てを伝授するつもりだからな!
ラフな気持ちで聞いてくれると助かる。
こう見えて、お前の笑顔……
大好きなんだ!!さあ、再度その笑顔をエンディアにぶつけるんだ。
うん。エンディアさん……
一緒に笑顔が溢れる友達になりましょう。
宜しくお願いします!!
おいで、エディール!
友達の証にハグを交わしたいんだ!!
息子に厳しく接していた理由……
幼い頃の自分と重ねて見ていた。
エシャール自身もエディールと同じように
友達が全く出来なかった過去があった。性格、口調、言動も全てが類似している。
そのせいで、昔痛感していた事が時を越えて
息子達にはそうなって欲しくない為
いつの間にか家族にも怒り散らす
性格に変貌と化していた……。
散歩していたエンディアに出くわし、エディールは
彼の大好きな笑顔を見せ付け、無事に2人目の友達となった。
****
少し時間が経ち、自宅に帰って来ると
玄関の前に立っていたのは母親シャノン――。
エディール、おかえり!!
夕飯中だったから、急いで着替えてきな。
エディールはふと笑顔になり
"やっと夕飯だ!" と急いで自室に向かい着替え始める。
彼の背中を玄関で見ていた
シャノンとエシャールは息子の性格が
一皮剥けたと感じて、井戸端会議のように
話し合っていた……。
ねえ、エシャール。
エディール、一皮剥けたと思わない?
何か魔法を掛けたの?
いや。魔法を掛けたのは
私じゃなくエンディアの方だ。
あら。先を越されたわね。
でも、エシャールからしたら嬉しい事じゃない?
立派に育って欲しい願いが伝わったんでしょ。
もちろんっ。もう、お腹が空いて……
ようやく母さんの夕飯に在り付けたよ。美味しそう。
やっぱりシャノンの料理は世界一だ!!
いつも美味しいからな。
あら、褒めても何も出ないわよ。
じゃあ、改めてレイディア、ルディースも
いただきます、するよ!!
(やっぱり楽しいですね。
こんな日がいつまでも続いて欲しいな……)
ただ、現実はそう甘くない……。
エジェテールが崩壊する "刻限" まで
カウントダウンは既に始まっていた。
そして、本編の最後には衝撃の展開が。
103話:エジェテールとエディール!遠き日々の過去!!(後編)へと続く――。
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