76話:天国と地獄!クリストビレッジとヒルハイドタワー!!(後編)
文字数 5,175文字
【前回のあらすじ】
山岳地帯が目前で消えていく姿を目撃してしまった
冒険者に特化した村「クリストビレッジ」の村長と冒険者。
リリカルラビットの冒険譚では触れないけれど
己の鍛錬でモンスターや強敵を倒して、立派な勇者を目指す人も各地に見受けられる。
ただ、時期が悪かった……。
現在、この地「クロスウッド」では皇帝、暗躍組織『アンドルディシア』、
幹部『マイティーダーク』と言ったヤバい奴等がリリカルラビットに纏わる計画を次々に企てていた為
軟弱な冒険者がこの地を巡って、遭遇してでもしたら一撃でやられる事間違いなし。
小町『エジェテール』の崩壊ざまを覆い隠す為、山岳を映し出すホログラムが古城の2階に施された。
その瓦礫の山を見られた腹いせにルディア、シルディート、ドルシードの
3人によって全てが失われてしまった……。
【悲報】クリストビレッジ、崩壊――。
****
クリストビレッジを崩壊する光景を
偶然近くの山道の茂みに隠れながら伺っていたのはインバ、シルヴィン、そしてゼルシード。
村を1つ意図も容易く破壊に導く狂気じみたシルディートの力を見てしまい
怖気づいてしまうけれど、彼も倒す、あるいは改心させないと
全てを終わらす事は決して出来ない。
村が……。
それにオルーム、やっと思い出した。
あの村同様、エジェテールを崩壊に導いた方……、ですよね?
どういう事だよ!!
あんな光景見てしまって黙って無いとでも思うのか?
村1つ壊したんだぞ。ゼルシードさん、お願いです…、全部話して下さい!!
…………。
1つ言うなら、小町エジェテールを崩壊に導いたオルームと
クリストビレッジを襲撃したオルームは別人だ。
古城で髪型が紺色で、左目に傷を負った奴を見た筈…、どうだ?
髪型が紺色……、左目に傷……、あっ!
牢屋から抜け出した先の小部屋で見た気がする。
どうだインバ、覚えていないか?
覚えていますよ。名前はシルディート、確か禁忌スキル「変装」の名人。
ん、ちょっと待って下さい。さっき別人って言ってましたけど…、あれ?
複雑すぎて頭がこんがらがりそうです……。
確かにオルームを一から説明すると時間が長くなりそうだ……。
仕方ない。ヒルハイドタワーに向かいながら話してやろう。
これだけは言わせてくれ。シルディートが彼を必要以上に気に入っている理由は……
(くっ、この記憶は……。
あれ、ボクに兄さんっていたかな……?
思い出したいのに、何かが阻んでいるような気がする。)
(お前を気に入る奴は俺ぐらいしか居ないぞ。断割のスキル所持していたって、
遠く離れていようが自慢の家族なんだ。だろ、オルーム?)
皇帝の指示に服従し、
禁忌スキルでもある「変装」を使いこなす為
旋律の館、そして蒼彩の洞窟を根城にしようとしていた
ウルグ達と共に森で遊んでいたオルームの背後に忍び寄り
兄シルディートは一瞬のスキをついて弟を襲った過去も――。
(済まない……。こうでもしないと皇帝に殺されてしまいます。
オルーム…、必ず謝罪するその日まで、お前の姿借りさせて貰うぞ……。
これから兄さんがやる事を許してくれ。)
そう、シルディートはオルームの実の兄だ。エジェテールを崩壊した時の記憶と共に欠如してしまった……。
えっ、と言う事は
シルディートさんは何か吹き込まれて無理矢理やらされているのか……。
そうか…、エジェテールを崩壊に導いたのは本物のオルーム。
それを皇帝は餌にしたのか。その後、自分が弟に扮する事で
イメージ悪化を狙った計画……!
それにしても酷過ぎじゃないか。
何でそこまで家族を切り離そうとするんだよ! ふざけてやがる。
皇帝の過去に何があったのかは知らんけどな、絶対に許しちゃいけないんだ。
その意気ですよ、お二人とも。
その為にヒルハイドタワーに行く必要がある。
オルームに会ってなんとしても記憶を取り戻し、皇帝の正体を聞き出すんだ!
じゃあ、改めて向かうけど準備は良いか?
明かされたのはオルームが失った記憶の1部。
彼の兄は暗躍組織『アンドルディシア』のメンバーであり変装の名人、シルディート。
彼が何度も扮している事には意味があった。
それは一度たりとも家族として忘れない為……
皇帝に言い様に言われてしまって、無理矢理に任務に就いているけれど
大好きな弟に扮して、シャランアゾールやグライド研究所、そしてクリストビレッジを崩壊に
導くのは決して許されもしないし、いつか謝罪するとしても
本人が「何でボクに扮したの?」って言われるかもしれない……。
もちろん、全てが間違っている行為。
ただ、女嫌いになった原因がリフィーにある事を気付き、彼女の元に謝罪しに行こうとする姿や
否が応に指示に従っている雰囲気も醸し出して来ている為、まだ少しは善の心がある可能性も大。
****
ここはヒルハイドタワー。時刻は23時過ぎ……。
無事にビアンラボの精鋭部隊と合流し、いよいよ明日から
幹部「マイティーダーク」、エディールが本格始動をする事なんて知る由もなく
窓ガラスが割れた大広間じゃなく、その階にある会議室でゆっくりと時間を過ごしていた。
アルバートさんと久しぶりにお話出来て嬉しかったよー!
でも、ジハイドさんっ!
本当にお心配かけてすみませんっ!!
私、やっぱりスタッフとしてまだまだですね、グスン……。
ユズキが無事ならそれでいいんだ。
兄のグレイザーを助ける為に奮闘している姿、いつも見ているからな!
お前の頑張りを必ず見ている筈、その想いが伝わったら改心してくれるんじゃないか!?
お互いビアンラボのスタッフ同士、頑張ろうな!!
さてと、ここからは大人の時間だ。ユズキ、お前はもう寝た方がいい。
ただ1人で寝るのも怖いだろ? 寝ている最中に襲って来る可能性も低くはない。
それにお前しか女性は居ないんだ。どうだ?
じゃあ、お言葉に甘えて貰っちゃおうかなー。
ジハイド所長、そして皆さんおやすみなさいっ!
さすがに皆に囲まれていながらもユズキは女の子。
そしてここはヒルハイドタワー…、悪の根城……。ましてや最上階には
幹部やボスのエディールが屯っている上、この場所を1番熟知している為、いつ何時でも襲撃可能。
″男性は女性を守る者″ と両親から教えられてきたアルバートは
メンバーの中でたった1人の女の子であり同じビアンラボ職員であるユズキを
命を張って守る為、同じ床で寝る事になった。
****
時は過ぎ、深夜2時――。
皆が泊まっている大部屋を抜け、近くにある窓から外の風景を見ていたのは
ブリジスとジルバ、そしてジハイド所長。
やっぱり星って綺麗だよねー!
ジルバさんや、ジハイドさんはどうかなー?
そうですね。こうやって皆さんと鑑賞するのは初めてですね。
ブリジスさん、何でそこまで星が大好きなんですか?
んー?
だって夜空を常に照らし続けているんだよー!
キラキラしてるしね。それに辛い事があった時に星を見てると落ち着くんだー。
強い光を放っているから、ボクも皆に笑顔をする事で
皆を幸せに出来るかなーと思ってやってるんだよー。
【ブリジスの父】
お前の笑顔はクロスウッドを幸せにしてくれる筈だ。
父さんね、これからちょっと遠い場所に行くけど、
帰って来たその時、ブリジスのそのピュアな笑顔見せてくれないか?
うんっ! クロスウッドを守れるようにボク、頑張るよー!
パパにだーいすきな笑顔見せてあげるんだ!!
そうか。お前の笑顔見ていたら仕事頑張れそうだ。
じゃあ、行ってくるぞ。じゃあな、ブリジス……!
父さんや母さんはもう居ないけど、この広い大空の何処かで
見ていてくれてるかもしれないんだー。ボクが頑張っている姿見ていて欲しいなー!
確か、ブリジスさんの父って
不慮の事故で亡くなったと聞いていますけど……
(ジハイドさん、本当はボクが両親を殺したんだ……。
なんて言えないよね。全てが終わったらきちんと言わないと!)
笑顔を貫いている姿、素敵です!
その想い、必ずこの晴々としている大空の何処かで見ていてくれていますよ。
そういえば、兄弟とか居ないんですか?
いるよー! 会いたいなら連絡取ればすぐ駆け付けてくれるんだよねー。
実はボクの兄も何故かスキル持ってるんだよー!!
クランチャードで働いているからここから割と近いですよね、ジハイドさんっ!?
えっ、クランチャードですか!?
クロスウッドの海産業を支える会社ですよね……。
ブリジスが笑顔を大切にしている理由
″父からの言葉″ を常に忘れない為――。
″どんな時でも笑顔を絶やさない事″
″自分の笑顔で人を幸せに出来る事″
どれも彼からしたらかけがえのない生活、そして一生忘れる事の出来ない思い出の言葉でもある。
時間軸で言うと、幼少期に皇帝に連れられ
好奇心旺盛だった彼自身が指示に無理矢理従ってしまい
夜空に佇んでいた一番星を自宅に墜落させて、自分の家族を自分の手で殺害してしまった少し前の話。
2人きりになりましたね。
ジルバさんは、何か叶えたい事や夢ってあるんですか?
ジハイドさん、これは俺の持論なんだけど
夢を叶えるって言うのは目標を成し遂げる事と同じモノだと思う。
まだその先があると思うから、夢を掲げる事は絶対にしないんだ……。
何か不快な気分にさせたなら謝る、済まんな……!
ただ、俺は自分の事より弟のルドスがもっと立派に育って欲しい。
不器用で、ちょっと上から目線、強気な態度を
見せる時もあるけど、立派な俺の家族なんだ!
強いて言うなら、それが夢だ……。
大部屋で寝ていたルドスが起きて近くの窓から2人きりで自分の事を
話しているのを偶然にも聞いてしまい、兄であるジルバの想いが彼の心に強く共鳴し不意に涙を見せる。
どうした?
ほら、来な。今日ぐらい泣いてみたらどうだ?
お前の気持ちは痛い程分かってるんだ。だって、ルドス…、お前の事が……
彼の愛溢れる発言がルドスの涙腺に見事に胸に刺さり
熱い抱擁を交わし、今まで葛藤していた自分との性格が走馬灯のように思い出しながら
彼の胸で思い切り強く号泣している。
″家族だから誰よりもルドスの事を分かっている″
″弟を守れないなんて兄失格だ!″
ジルバもまた成長途中の弟を見守っている以上、逞しく立派に育って欲しい。
それだけを彼は望みルドスを優しく包み込み、彼が泣いている姿をしかと見始める。
****
ここは幹部だったナギを喰い止めた大広間。
最上階である30階の1個下の階、29階で寝泊りしている
幹部『マイティーダーク』のメンバー、グレイザーが
覚醒ではなく通常時の姿でリオルド、ブルの2人と合流してどうやら談話をしている様子……。
そう、これはエディールには内緒の極秘過ぎる行動――。
ブリジス、ブル……。
お前等の行動は常にエディールが監視している。
ただ、この時間帯は無意味だから電源オフ。こういう時にしか会えないからな……。
ヴィルゼート、鼾がうるさくて寝付けないから少し付き合え!
それに寝ている最中は、喉を支えている筋肉が緩むので、その結果
咽頭が狭くなって余計に鼾が出る仕組みになっています。
改善方法は…、まだ症状が軽い場合は、横向きになって寝る事。そしてもう1つは……
肥満が原因の場合だ、その時はダイエットをするしかない。
確かヴィルゼートさんはお酒が好きだった筈。
飲酒と肥満は密接に関係しているので、アルコールもある程度控えた方がいいですね。
その分、グレイザー様はトレーニングで鍛えた
この逞しい身体を維持出来ている。さすがです!
えっ、グレイザー様が笑顔……!?
もしかしてエディール様を裏切るつもりですか?
と言うより、わざわざ鼾掻いている
ヴィルゼートの事を話に来た訳じゃない事位分かっている。何しに来た?
もう。そんな怖い顔しなくてもいいじゃん。
俺がここに来た理由は……
****
時は同じ頃、29階にて数人でも収容可能な大部屋同様の
専用部屋の洗面所で鏡を見ながら苦しそうに自分の身体をさすっているエディール。
彼が見ている鏡には過去の自分が映っている……。
未来の私はどんな風になっているんでしょうか。
友達は増えたかな? 今よりもっと幸せになっているのかな?
でも……、友達が居なくたって絶対悪さだけはしないんだ。
だって人を不幸にさせるだけじゃなく、やっちゃいけない事だもんね……。
早く大人になりたいですね……。
く、苦しい……。そんな事分かっています。だけど…、だけど……。
もう手遅れなんですよ。分かって下さい……!!!
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