103話:エジェテールとエディール!遠き日々の過去!!(後編)
文字数 5,776文字
※ 一部グロテスクな表情の差分がありますので
閲覧する方は気を付けて読んで下さい。
……ったく。別に記念写真なんか
撮らなくてもいいだろ? ほら見てみろ。
父さんなんかいつもの恰好だぞ。
くっ……。この三脚!!
ちゃんと立て。使いモンにならないな……
父さん、やり方が違うんですよ……。
ここは私に任せて下さい。
ってか、Tシャツ1枚で写る気なの?
上に何か羽織るとか無いのかよ……。
これが素の私だ。
ふん。変に着飾るよりマシだろ……
そんな事よりあの2人はどうした?
一生の思い出って言ってたからな……。
写真映えする服を選んでいるみたいだ。
遅いのはいつもの事だ。レイディアと
ルージェスはこれで良いのか?
私はこの服で大丈夫です。母さんに
一番最初に買って貰った服ですからね!
兄さんはどうかな?
別にこれで構わない。
服なんてあまり興味無いからな……。
レイディア、ルージェスを見習ったどう?
服なんか……って言ってるけど、貴方だって
お気に入りのモノを着てるじゃん。
なんだ、シャノン……。
結局いつものエプロン姿じゃないか。
映える服を選んでたと言ってたけど……
そうよ。エディールが言ってた通り
一生の思い出となるからね。
そりゃあ、慎重になるわよ……
ただ、皆特に着替えてないし
よく考えたら礼装なんかしなくても
ありのままの私を出せるのは
馴染みのある服って気付いたのよ!
私も結局その結果に辿り着いて
いつもの恰好で来ました。ってか……
何処かに出かける訳でも無く家の前ですからね。
結局
"いつも通り" か……。
さあ、三脚にカメラもセットした。
お前等、シャッター切るぞ。
準備は……よさそうだな。
さあ、スマイルしなくちゃ。
3人もきちんとするのよ!!!
ジー とシャッターを切る
独特な音が聞こえ始め
タイマーが0になる前にエシャールは
皆の元に急ぎ、滅多に笑わないレイディアも
横で自然と笑顔になり、無事に記念写真を
撮る事に成功――。
今日は快晴。エディールが提案した記念写真の撮影日。
清々しい空気を吸いながら大空の下で
ゆったりな時間が過ぎて行く。
ただ、本日はエジェテール崩壊の前日。
明日、見慣れた風景が悉く姿を失うとは
誰しもが思って無かった……。
****
そしていよいよ、当日――。
朝食を食べ終わって洗い物をしているシャノン。
手元が狂ってエディールの
茶碗を床に落として割ってしまう。
ご、ごめんなさい……エディール。
貴方の茶碗割っちゃった。
全然大丈夫だよ。母さんも毎日の家事で
少し疲れてるんだから、少し休まないとね……。
その時、居間で
寛いでいた
エシャールの地獄耳が茶碗を割った音を聞きつけ
台所へと怒号を上げに来た。
ご、ごめんなさい……貴方。
ちょっとヘマをしてしまってね。
……ったく! 私もさっき庭で小石に
躓くし
シャノンは茶碗を割ってしまう。
今日はホント嫌な日だな!!
こういう日は家でレイディア兄さん、ルディースと
一緒に遊んでた方が一番ですね。
あら。あの2人なら出掛けたわよ。
何だ。てっきりエディールに言ったのかと……
まあ……、でも早く帰って来ると
思うから家でゆっくりしてな。
家の中に不協和音が流れる……。
エジェテール完全崩壊へのカウントダウンの
鐘の音が3人の元に少しずつ聞こえ始めて来ていた。
****
その頃、古城フィンディルの裏庭――。
【????】
ようやく始まるんだな……。
僕はどうすればいいんだっけ、皇帝?
ゼルシードさんから貰った
"断割" の力を
エジェテールの皆さんに見せ付けるのだ……
もちろん。これは序章に過ぎません……
これから始まる崇高な計画には犠牲も必要です。
例え貴方に縋り付いて来ても
非情な目で撃退して下さい。
【オルーム】
僕の力を見せ付ければ良いんだな?
そんなの楽勝だよ……
一撃で仕留めれば、ホント楽に死ねるからね。
大病を患ってる人も我慢せずにあの世逝きだ……
柱に頑丈に縛り付けている
"誰か" の元に
ゆっくりと背後から近付く。不気味な足音が
城内に響き渡り、汗を掻きつつ
一気に緊張が走る……。
この城、フィンディルに無断で
入って来た彼をどうするか考えるとしよう……。
ふーん。悪の巣窟に無断で侵入するとは
幸先悪かったな。馬鹿な奴だぜ……
で、お前名は何て言うんだ?
言わなかったら、どうなるか分かってるだろ?
白状した方が身の為だ。
名はレイディア。3人息子の長男だ……私の家族には指一本触れさせねえぞ。
なあ、立場分かってるのか?
ここはもうキシャーロック一族の所有物じゃなく
僕等のアジトだと言ってるんだよ。そんな所に
ノコノコと興味本位で入って来るなんて
肝が据わってるな。で……
家族? ふーん。
もちろん名前言ってくれるよね?
これから始まる物語には必要不可欠だろ。
くっ……。父親エシャール
母親シャノン、そして私レイディア
ルージェス、エディール……合計5人家族だ……
成程。家族構成は分かりました。
それでレイディアさん……、
相当父親に恨みがあるみたいですね。
そんな事、一目瞭然……。
貴方は必死に自分の抱える黒い闇と戦っている。
抑えているつもりだとしても、
決して逃げられないんですよ。
どうせ、無断でフィンディルに入り込んで
お前等の計画の邪魔をした。そんな感じなんだろ?
分かってるじゃねえか……。
これからフィンディルを崩壊しようと思った矢先に
起きたんだぞ。どう責任取ってくれるんだ?
なら私を殺せば良い……。
それでお前等の気が済めばな。
ただ、寡黙な自分でもこれだけは言えるぞ。
家族……、特に
エディールを不幸にさせた奴は許さない!!!
もう、我慢の限界だ。
不幸ってどんな時に使うか教えてやろうか?
"誰からも求められなくなった時" だ。
さあ、僕の目をジッと見ろ……。
オルームさん、後は大丈夫です。
10分程で効き目が現れますので、思う存分
エジェテールを崩壊に導き、我々此処に在りと
見せしめて来て下さい……。
分かった。じゃあまずは……
レイディア、お前の家族からだ。
今になって "すみません" は通じないからな!
皇帝、許可をお願いします。
いよいよ殲滅の衝動に駆られたオルーム、
皇帝の指示により小町エジェテール崩壊に向けて、
素早い身のこなしで裏庭にある塀によじ昇り
以前エディールとヒョードが出会った森の最奥地を通り
少しずつ彼の自宅へと急接近し始めていた……。
****
その頃、レイディアと同じように
次男であるルディースは麓町オークステリアにある
"クロスピア" を見学しようと周りの様子を伺い
中に誰も居ない事を確認し、ひたすら続く廊下を
道なりに進むと、とある部屋の前に辿り着く。
"どうせ廃業してるからもう使われてない" と
油断していたせいか……
扉開けたら、そこには "エバス" と言った
男性が何かの作業を行っていた。
【エバス】
誰ですか、貴方……?
見慣れない顔ですね……。
え、えっ。
人がいるなんて聞いてない……。
勝手に黙って入り込んで申し訳ございません。
素朴な質問をさせてくれ……。
此処に何しに来た? もしかして秘密を
握って屋外へと逃亡を謀ろうとしたのか?
そんな事しませんよ……。
ただ、以前資料館にあった雑誌でクロスピアの事が
掲載されてたのを見て興味を持っただけです。
こう見えて、工業地帯とか見るのが好きなんで。
ちゃんと理由言ったので今後こそ失礼……
ちょっと待てと言ってるだろ……。
早く帰ろうとしてる所見ると、怪しいな。
まさか、私が此処で何していたのかを見たのか?
す、すみません……。
ほんの少し見てしまいました。
許してくれませんか? 誰にも言わないので……
ダメに決まってるだろ……。
ふん。このクロスピアを乗っ取ろうと
していた所を見られたとは、一生の不覚だな。
予定変更だ、フフフ……。
後に此処にブリジスとキルディーと言った私の僕が
到着する。それまで大人しく居る事。分かったか?
古城フィンディル、麓町オークステリアにあるクロスピア。
遠く離れた2つの場所で決して
交わってはいけない物語が遂に動き始めてしまう。
そんな中、エディール宅にもいよいよ
悲劇と嘆きのチャイムが鳴り響こうとしていた……。
****
エディール宅――。
玄関の扉に写っている
非情な目付きをしているオルームの影。
彼が見つめているのは一家暗殺、そしてエジェテール崩壊。
ドンッ と何回も必要以上に叩き、
自分の存在を更にアピールしている。
シャノン、もし私の身に何があったら
エディール達を任せたぞ。
嫌な予感が的中……。
全てを母親であるシャノンに託し
意を決してエシャールは玄関に映る影の
正体に迫ろうと、ゆっくりと扉を開けて行く。
会って数秒も経たないまま
オルームの殲滅衝動が牙を剥き
右手に溜まっていたパワーをすぐさま
みぞおちに打ち込み、エシャールは口から吐血し
直立不動が出来ない状況にさせてしまう。
※みぞおちとは……
胸と腹の境界部にあるくぼみ
く、苦しい……。聞かせてくれ。
お前は一体何者だ? はぁ…はぁ……
僕の名前を聞きたいの?
これから死んで行く奴に名乗っても無意味……
死が近いって言うのに威勢だけは100点だな。
名はオルーム。皇帝と共にクロスウッドを
地に落とす暗殺者だ……!!!
な、何だと……!!!
はぁ、はぁ。ふざけるのも大概にしろ。
そんな事、私が許さな……
グサッ グサッ
今度は腹部全体に思い切り
渾身のパワーを一撃叩き込み、彼のTシャツが
さっきより赤く染まってしまい、言葉数が更に減ってしまう。
か、帰ってくれ……!
私はまだ死ぬ訳には行かないんだ。
エディールの未来を見るまでは……
…………。
どうせ "私の" だって言いたいんだろ!!
その頃、台所――。
自室で本を読んでいたエディールを呼び
今玄関で起きている事、そしてこれからの事を
彼の将来を心配だからこそ、根気よく説明している。
何言ってるの? エシャールは私の夫よ。
決して何もしてないわ。そう信じなくちゃ!
エディールは優しいね。その性格と笑顔があれば
もっと友達作れるに違いないわ。
母さん、どうしたの?
なんか別れの挨拶に聞こえるけど……
シャノンは成長途中のエディールの
頭を撫で始め、今まで言えなかった「ありがとう」の言葉を
これから先も憶えていて欲しいと切に願い始め、
可愛い息子との最後の会話を楽しむ……。
エディール、父さんはね
立派な最期を迎えるまで貴方と一緒に
色んな景色を見せたがっていたのよ……。
常に
"お前が息子で良かった。ありがとな!" って
言ってたのちゃんと覚えているんだからね。
これからも沢山友達作って、良い人生を過ごしてね。
悪事なんか絶対に働かない事!!!
今まで楽しかったよ。ありがとね。
レイディアとルージェスの事、宜しく頼んだよ!!
テーブルの上に置いてある
洗い終わっていたフライパンを持って
エシャールと言い争っているオルームを撃退しに
行こうと足を震わせながら、勇気を持って
彼の元に向かい始めると……
ちょっと!!! 土足で家に上がるなんて
常識が分かってないのね。
へえー。僕にそんなフライパンで立ち向かうんだね。
調理器具で後頭部思いっ切り叩けば
1発であの世行きかもね……
でもね、聞いて。
エシャールって言う奴、死んだんだよ。
立派な最期だったな。玄関で良い顔で亡くなってるよ……
大量出血をしながら
苦痛を味わったエシャール。
ただ、時は待ってくれなかった……。
荒い息を吐きながら最後の最後まで頑張ったけれど
その結果は報われず、薄っすらと視界が悪くなって
そのまま静かに息を引き取ってしまった。
エシャール、今から私も行くよ!!!
一緒の方が楽しいでしょ。
ふーん。抵抗しないんだね……
だったら最後に何か言い残す事あるなら聞いてやるぞ。
エディール、聞いて!
もう会えなくなるのは寂しいけど
天国に行っても私達は永遠に家族よ!!!
ええ、もちろん。覚悟は出来たわ。
だけど、私も最後の抵抗ぐらいさせて貰うよ……。
(エディール、レイディア、ルージェス……大好きだよ!!!)
台所の奥にある引き戸を思いっ切り開け
外に飛び出すエディール。
彼はその日、泣きながらエジェテールの町を疲れるまで走った。
そして、父親エシャールと母親シャノンは
オルームの "断割" と言った禁忌スキルにより
家ものごと崩れ去り、立派な最期を迎えた。
育った町、大好きだった町が一瞬にして姿を失った……。
山岳地帯で囲まれている為、絶対に逃げられないと思っていた。
そう、ホログラムとも知らずに。
次回……
エディール、お前の家族
死んじゃったね。これ全部……
第104話:エディールの涙!ヒルハイドタワー最上階の奇跡!!へ続く。
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