第13話1 案内役

文字数 820文字

「三島様! 三島様!」
「何事か」
「先ほどご指示のありました者と特徴の似た者がこの屋敷へ来ております」
「その人ってひょろっとして、毛がもじゃもじゃですか?」
「はっ。そのような風体をしております」
「よかったぁ。きっとここまで忘れ物を届けてくれたんだね」
「ただその者は怪我をしており、何を言っているのか見当もつかず……」
「大変だ。澪!」
「わかってるっ。すぐに案内してください!」
 土間に倒れ込んだ奥山田さんは顔色を失っていた。
「ぐ、ぐぅ……く、は、はぁはぁ……」
「気をしっかり持ってください。清正君、手を握って声をかけてあげて」
「奥山田さん! もう大丈夫ですからね!」
「頭からの出血がひどい。あとはお腹を蹴られたのかな。この感じだと肋骨が折れてるかも」

 髪の毛のせいでわからなかったけど、頭を支えようとした澪の手が真っ赤に染まっていた。

 もう片方の手はうっ血して変色している腹部に当てられている。

「すぅ……はぁぁ。……よしっ」

 澪が目を瞑ると両手が淡く発光する。木霊の持つ〈手当〉の能力だ。


 途切れがちだった奥山田さんの呼吸が落ち着いてくる。

「もう大丈夫だと思う……ふぅ」
「奥山田さん! 奥山田さん、大丈夫ですか!」
「ぅぁ、あぁ……こ、ここは?」
「代官屋敷です。僕のことわかりますか?」
「もちろんさ。八岐について語り合える唯一の友じゃないか」
「どうしたんですか? 僕たちと別れてから何があったんですか?」
「すまない……あんたたちの忘れ物を届けようとしたんだけどいきなり襲われて。あたた。俺の頭大丈夫なのかなあ。ったく、後ろから襲い掛かってくるとかありえないだろ、もう。だからといって正面からこられたってこっちは何もできなかっただろうけどさ。ああ痛い。あっ。そういえば今のって木霊の能力じゃないの? こうやって体験してありがたみを実感できるのって感動だなあ。すごい能力もあったもんだ。さっきまでの痛みが嘘みたいだもんな」
 言いながら上半身を起こす。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色