第20話2

文字数 820文字

「調子に乗って飲み過ぎるからだよ。ほら、お水飲んで」

「ありがと。んく……ん、んく……ぷはー」
「澪。僕とした約束覚えてる?」
「えっと……お酒には、気を付ける……」
「どうしても断れないとか、おめでたい席とかでお酒を一切飲むなとは言わないよ。でも時と場合は考えて飲もうね」

「ククク。あの程度の量で情けない。そこのもじゃもじゃを少しは見習え」


 奥山田さんが持ち込んだ一斗樽を一晩で空にした十水さんはピンピンしている。

 飲んだのは主に十水さんと奥山田さんの二人だ。

 この人たちはザルではなくワクだった。


「ははは。僕はお酒に強い方だからさ。普通の人なら不吹君みたいな飲み方がいいと思うよ」
「清正君みたいな飲み方……でも清正君って私よりお酒強いよね?」
「僕はお酒に強いわけじゃなくて付き合い方を知ってるだけだよ。澪もお酒と上手に付き合う方法を早く見つけないと。ほら、しっかりして。忘れ物はない?」

「大丈夫。勾玉はちゃんと持ってるから。二度となくさないから」


「もう行くのか。なんならもう一泊しても構わんのだぞ」
「お心遣いありがとうございます。でも勾玉を少しでも早く茅葺さんに届けたいものですから」
「僕は残ってもいいんだけどなあ。いろんな話をもっと聞かせてもらいたいなあ」
「そんな顔をするな大奥山田よ。いずれまた飲むこともあるだろう。その時を楽しみにしておれ」
「わかりました! 楽しみにしております!」

「カカカ。よいよい。楽しい酒を共に飲んだ仲だからな」


「ま、まぶしい……なんでこんなお天気がいいの……」
「雨に降られるよりもずっといいでしょ。嫌だよ、濡れて帰るのは」

「それはそうだけどさぁ……おっと。だいじょうぶだよ、紅寿。大丈夫だから」


 相変わらずフラフラしている澪の近くには紅寿が控えていた。

「人狼の娘たちよ。儂と一緒に来い」

「行っておいで」
「はい」

「澪のことは僕が見ているから紅寿も行っていいよ」

「こっちだ」
 十水さんは二人を連れて庵の裏手へ向かった。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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