第6話3
文字数 848文字
翠寿は舳先で大喜びだ。揺れる船上にあってバランスを崩すこともない。
それでも葵が気を利かせて、はしゃぐ翠寿の腰を支えてくれている。
櫓を漕ぐ船頭さんの前に座っている紅寿は真剣な表情で懐に柄樽を抱え込んでいる。
しばし僕の顔を見つめてから、紅寿はゆっくりと左右に首を振った。
気にするなということだろうか。
意思疎通らしきことができたのは喜ばしい。
この一歩は小さいが、僕にとっては偉大な一歩である。
恐らくは日影の仲間による工作だろう。
いずれにせよ何者かが船坂にも潜伏していると考えて間違いない。気を付けておこう。