第7話4

文字数 869文字

「見て、清正君! 誰か倒れてる!」


 手で雨を遮り視界を確保すると、前方の道端に蹲る人が見えた。

 けれどこう暗くては男性か女性か、若者か年寄りかも判然としない。


「ケガをしてるのかもっ」


「待って! 僕が行くよ」


 改めて先頭に立つと袖が引かれる。

 心配そうな顔で見上げているのは翠寿だった。


「清正さま、あぶないかもしれんだらぁ」


「あー、そうだね。翠寿の言う通りだ。みんなで行こう。周囲の警戒も忘れずにね」

 五人でまとまってジリジリと進んでいく。

 その間にも幾度か周囲が明滅した。

「女の子?」

 暗闇の中、白い足が浮かび上がっている。

 張り出した木の根に足を取られたのかもしれない。

「大丈夫!? 足が痛いの?」
「いいえ。鼻緒が切れてしまって……」

 小柄な体つきにはあまり似つかわしくない少し掠れた声。

 髪は後ろで一つに束ねられているけど雨に濡れて重そうだ。

 紺地の上着の背中には白く文様が染め抜かれている。どこかのお店で働いているのかもしれない。


「鼻緒ね。ちょっと待ってて」

 懐から手拭いを取り出した澪は端を噛んで引き裂く。それから細くなった布を紐状によった。


「これでどうかな」

「ありがとうございます。大丈夫のようです」


 立ち上がった女の子は僕たちに頭を下げる。
土井(どい)八鶴(はちつる)と申します。改めてありがとうございました」

「いいのよ。ケガがなくてなによりだわ」


「僕は不吹(ふぶき)清正(きよまさ)。彼女が淡渕澪。それから葵、紅寿、翠寿です。八鶴さんはこの町の人ですよね。よかったら宿屋の場所を教えてもらえないでしょうか」
「それでしたら、ぜひうちへお越しください。浜田屋(はまだや)という旅籠で働いているんです」
「それは助かります。町への道がわからない上に急に暗くなって、しかも雨まで降り出して困っていたんですよ」
「この季節は天気が崩れやすいんです。雨も一時的で……ほら、もう止んでます」
「え? あ、本当だ」
「よかったね、清正く――くちゅん!」

 雨で濡れた体が冷え始めていて寒気がする。


「こちらです。暗いのでお足もとに気を付けてください」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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