第27話2

文字数 741文字

「フン。ちょこまかとよく動く。まるでネズミよのォ」
「水蛟は大雑把すぎるのですよ。相手を倒すのに大技など必要ありません。そのようなことをせずとも――」

 咄嗟に体が動く。

 〈神速〉で一気に駆ける。間に合え!

「させるかああ!」

 擦るような鈍い金属音。

 獅童で槍の穂先を弾く。

 十水さんのお腹を狙った一撃をギリギリで食い止めた。

「小僧!?」
「よく防ぎきりました」
 また逢初が消える。
「主様。あちらの屋根です」
 槍を肩に担いだ逢初の姿が屋根の上にあった。
「彼がいなければあなたは死んでいました。感謝することです」
「ク――ククク。よう言った。これを食らってもまだ同じ口を叩けるかァ!」
 睨め付ける十水さんの左眼が青く光る。
「ちょ、嘘でしょ!? 〈竜眼(りゅうがん)〉を使える水蛟がまだいたなんて――」
「〈竜眼〉?」
「水蛟の〈竜眼〉はね、過去や未来を視ることができるって言われてるのっ」
「……冗談だよね?」
「カカカ。冗談かどうかその目で確かめるがよい――捉えたぞッ。消えてなくなれェェ――!」

 魂が消えかねないほどの爆音と光の奔流。

 世界が白く消えていく中に視た光景はとても信じられるものではなかった。


 逢初は自身目指して落ちてくる雷を槍で斬り払う。

「そんな馬鹿な……」

 光が消えて世界に色が戻る。

 鼻を突くような青臭い匂いに思わず顔を顰めた。

「クカ。カカカカカ。驚いた。彼奴め、未来を変えてみせよったわ」
「それはどういう……」
「彼奴が黒焦げになった未来を儂は視たのだがな。まさか雷を斬るとは思ってもなかったわ」

 未来改変とか未来視以上にチートが過ぎる。


 逢初の持つ槍は帯電しているようでパチパチと音を立てている。

 流石に雷を斬って無傷とはいかなかったようで、全身から幾筋もの煙が立ち上っていた。


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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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