第20話3

文字数 662文字

「船坂へ戻ったらまずは三島様に挨拶しに行こうね」

 何かと便宜を図ってもらったのだから、そのお礼と結果報告はしておかなければならない。

 何事も筋を通しておくことは大切だ。

「もうお昼を過ぎてるから今日中に操心館へ戻るのは難しいかなあ」
「明日でいいならおじさんに話をしておくけど」
「そうしてもらえると助かります。お願いできますか」
「いいよいいよ。君たちのおかげで水蛟様にお会いするどころか酒を一緒に飲ませてもらえたんだからさ。なんでも言ってよ。しかし水蛟様はお美しいと聞いていたけど想像していた以上だったなあ。酒に強いのも事実だったし。やはり経験に勝るものはないよねえ。とても素敵な時間だった」
「昨夜のことは本に書き残しますか」
「当然さ。余すことなく記す所存だよ」

 そんなことを話していると十水さんたちが戻ってきた。

 紅寿は大きな弓を、翠寿は太刀を抱えている。

「それどうしたの」
「餞別だ。持っていくがいい」

 弓は澪が借りた地弓・繊月。

 太刀は葵が借りた天刀・龍霞だ。

「人狼の娘たちにも使った槍をやると言ったのだがいらぬと返されたわ。カカ。小僧はその腰のモノがあればよいのだろう」
「ああ、はい。でもこんな貴重なものをいただいても本当にいいのですか」

「構わぬ。どうせ儂が持っていても宝の持ち腐れだからな。それに小僧はこっちのが喜ぶだろう。勾玉を作った時に出た欠片だ。持っていくがいい」

「ありがとうございます」
「かわりと言ってはなんだが、船坂へ戻ったら登龍にすぐここへ来るように言伝を頼む」
「承りました」
「ではな。また近いうちに会おう」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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