第18話2

文字数 870文字

「陣形だけど、前衛は葵、その両側を紅寿と翠寿が固めて。澪は後ろから弓をお願い。僕は遊軍として動く。背後から敵が来れば僕が澪を護るよ」
「わかった。私の背中は清正君に任せるよ」

 途端、周囲が暗くなった。

 いきなり照明のスイッチを切ったみたいだ。

「こういう不意打ちは想定外だった。紅寿と翠寿はどう? 見える?」

「ちっともみえへん!」


「丸くなって互いの背中を守りあうんだ。自分の前をしっかり警戒して」

 暗闇は人を不安にさせる。

 時間が経てば経つほど焦燥は募り、精神を不安定にさせる。

「あれ? なんか薄っすらと見えてきてるような……翠寿! 何か動きは?」

「なんもないだらぁ」


『――幾多ノ戦ヲ越ヘテ至リシ我ガ妙技ヲ篤ト見ヨ』
「い、今のは……」

「清正君にも聞こえたの? なんだか胸の奥がぎゅってなって苦しい感じがする……」


 急速に暗闇が晴れていく。

「みんな、気を付けるんだ!」


 視界が失われてからたいして時間は経っていなかったのだろう。

 相変わらず空は厚い雲に覆われたままだ。

「あれ、あそこだよ、清正君!」

 澪が指差す先に黒い山のようなものがある。

 周囲を覆っていた暗闇――黒い霧が一所に集まって形を成したのか。

「嘘だろ……あんなのまるで機巧武者じゃないか!」

 頭部は兜を被っているかのようだった。

 両肩には大袖らしきものが下がり、体のラインに沿うような形状をした鎧で体を覆っている。

 腰から太ももあたりを守る板状のものは草摺か。


 そして左手に持っているのは巨大な弓だ。

「こんなのとどうやって戦えっていうんだ……」

 巨大であるというのはそれだけで力を持つ。

 対峙する者の心を折るには十分だ。

「澪っ。澪、聞いて!」
「な、なに?」
「ここは僕が機巧武者になって戦うべきかもしれない」
「でもそれだと私が水縹の連れ合いになれなくなっちゃう……」
「わかってる。でも死んだらそれまででしょ」

「そうだけど……そうだけど!」


 鎧武者の頭部がゆっくりと下を向き、僕らを視界に収める。


「ぅああああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!」


 突然上がった叫び声。

 槍を構えた翠寿が飛び出していた。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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