第17話1 得物選び

文字数 1,015文字

「それで昨夜の件なんですけど」
「ウム。覚悟は決まったか」
「何をするかまだ聞いてませんから覚悟と言われても困ります」

「なんの話?」


「言っておらなんだか」
「昨夜は思わせぶりなセリフを口にしただけですからね」
「あの、だからなんの話をしてるの?」
「其方らの死に水を取ってやるという話だが」
「……え? どういうこと?」
「本当に死ぬわけではないんですよね?」
「下手をすれば死ぬな」
「口元が緩んでますけど」
「チッ、勘のいい小僧だ」
「だからなんの話をしてるのか教えてってば!」
「水縹の勾玉から濁りをとる話だよ。そのためにここまで来たんだから」

「そうだった! お酒を飲みに来たんじゃなかったんだ!」


 まさか今まで忘れていたわけじゃないよね?

 頼むよ、ホント。

「でも勾玉がないよ」
「酔いつぶれて寝てたから澪は知らないんだっけ。ほら」
「ど、どうして? どうして清正君がこれを持ってるの?」
 昨夜、十水さんから聞いた話を語って聞かせる。
「そうだったんだ。よかったぁ」
「澪に預けるから今度はなくさないでね」

「うん。絶対に大丈夫」


「それで僕たちは何をすればいいんですか」
「わからん。出たとこ勝負になる。何しろその勾玉にどんなモノが宿っておるかわからんからな。だから死ぬかもしれんというのは嘘ではない。いきなり襲われる可能性は高いからな。まァ、十中八九そうなるだろう。相手がどんなものか想像もつかんが心しておけ」
「つまり戦いは避けられないってことですか」
「小僧たちに死なれると後が面倒だからな。準備はしっかり整えておくことだ」

「と言われましても……澪は戦う準備してきた?」


「いつも身に着けてる小刀しか持ってないよ」
 翠寿と紅寿に視線を向ける。
「こんなんしかあーへん」

 翠寿が懐から取り出したのは苦無だった。


 壁に刺して足場にしたり、スコップのように使って地面に穴を掘ったり、投げたり手に持って武器としても使える万能道具ではある。

「ハハァ、これはこれは。とんだ無能もいたものだ。武士であれば刀の一振りでも身に帯びているものであろう。大小二本差しでは不十分と三本目を用意する者もいると聞くぞ。いつから関谷はそんな格好でぶらつけるほど安全な場所になったのだ。勾玉を落としたと聞いた時にも思ったが、はっきり言ってやろう。このたわけ者どもがッ」
 またもぐうの音もでなかった。

「仕方あるまい。蔵にいくつか武具があるから特別に貸してやる。本当に死なれては寝覚めが悪いからな」


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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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