第14話2

文字数 777文字

 中はそれほど広くはない。

 三和土(たたき)で作られた土間には(かまど)と水場があり、それだけで屋内の四分の一ほどを占めている。

 部屋は畳敷きで部屋の中心に囲炉裏(いろり)があった。

「さっさと入らぬか」

 囲炉裏の前に小柄な少女が座っていた。


 年の頃は十代半ばほど。

 薄く青味がかった銀髪は後ろで一つに編み込まれている。

 海の底のような瑠璃色の瞳。目元には瞳と同じ色の鱗らしきものが光っている。

 小さな口は機嫌が悪そうに尖っていた。

 左右が別の模様で仕立てられている小綺麗な小袖姿だ。

 須玉匠の娘さんだろうか。

「いつまで立っておるつもりだ。座れ。落ち着かぬ」
「失礼します」

 上り框に腰を下ろして履物を脱ぐ。

 土間に水の入った桶があったのでそれで足を洗わせてもらった。


 それから思い思いの場所に座ると、少女は「フン」と鼻を鳴らした。

「あの、須玉匠――竜泉寺さんはご在宅でしょうか」
其方(そなた)の目は節穴か?」
「清正君、この子が例の須玉匠だと思うよ」
「……え?」
「そこの小娘の言う通り。儂が竜泉寺(りゅうせんじ)十水(とみず)だ」
「信じられない……まだ小さい女の子じゃないか」
「古い血を受け継いでいる水蛟の中には長命な人もいるって聞くからね。彼女もそうなんでしょ。生まれて百年ってところかな」
「外れだ。既に二百は齢を重ねておるぞ」


「じゃあここまで案内してくれた滝さんは? ああ見えて実は三百歳ぐらい?」
「あれは儂の曾姪孫(そうてっそん)だぞ。儂より年上のはずがあるか」


 改めて彼女を見る。


 白い肌は染み一つなく、二百年の人生を積み重ねた皺は一筋も見当たらない。

 背筋を伸ばして座っていても小柄なのはわかる。どう見たって童女だ。

 とても二百年を生きている人物には見えない。

「お主は木霊だな。チビたちは人狼か。相変わらず木霊と人狼は仲が良いことだ。カカカッ」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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