第25話2

文字数 727文字

「は、はあはあ……あぐう、う、うう……あと一つ……教えろ。お前と行動を共にしていた日影は……今、どこにいる」
「知りません。どこかで死んでいるのではないですか」
「仲間じゃ……なかった、のか」
「仕事の手伝いをしていたのは事実です。それをあなたが仲間と呼ぶのは自由です。すべてはあなたを呼び寄せるためにしたこと。この町の治安が悪くなれば、あなたのような強者がやってくる可能性が高くなる。だから連中に力を貸したのです。もっともそれとは関係なく、あなたは来てくれたみたいですけど」
「なんのために……僕をおびき寄せようとした」
「どうして、なぜ、なんのために……あなたはそればかりですね。どうでもいいことばかり気にしている。戦うこと以外に理由があると思うのですか。強者と戦いそれを倒すことは九十九の誉れ。戦いはいいものです。心躍ります。己のすべてをかけるだけの価値があります」
「つまりは……復讐か」
「いいえ。しいて言えば天槍・逢初が九十九だからでしょうか」
「……まったく、迷惑……極まりない」

 筒針さんの言っていた九十九の業というやつだと理解する。

 そんなものに巻き込まないでもらいたい。

 命のやり取りなんてまっぴらご免だ。

 この世界で経験したいことは他にいくらでもあるっていうのに。

「そんなことのために人を殺したっていうのか……」
「戦いは必要です。結果、人が死ぬこともありますが、戦いなのですからそれは仕方がありません。私の能力をお見せしなければ、あなたに認めてもらえないでしょう」

 こいつとわかり合えることはなさそうだ。

 出血のせいか手足が痺れ始めている。

 とてもじゃないけど代官屋敷まで自力でたどり着くのは難しい。

 でも澪ならきっとここまで来てくれているはずだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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