第20話4

文字数 775文字

「も、もう少しゆっくり、歩いてもらえると……ぅ、うう……」
「あんまりのんびりしてると日が暮れちゃうよ」
「わかってるけど……」
「仕方ないな。少し休憩しようか」
「さんせー。ふぅ……」
「ねえねえ。登龍っていう人は竜泉寺様とどういうご関係なの? もしかしてその人も八岐に連なる人だったりするの?」
「そうですよ。代官屋敷で会ってませんでしたっけ」
「覚えがないなあ。お侍様はたくさん見かけたんだけど」
「そういえば奥山田さんは隣の部屋で寝てましたね。滝さんは十水さんの血筋の方で、関谷との交易に支障が出ないようにするのがお仕事なんだそうですよ」

「なるほどねえ。そんな人なら是非ともお話を伺いたいなあ」


「あの主様。本当にこれを吾が持っていてもよろしいのですか」


 葵は腰に佩いた太刀を気にしている。
「いいよ。僕に扱えるとは思えないから葵が使って」
「不吹君もお侍様なんだろ。いいのかい」
「こういうのは適材適所ですよ。僕にはこれで十分です」
「君がそう言うのなら口を挟むことじゃないけどさ。しかし立派な刀だねえ。船坂はますます物騒になってるから、僕も護身用に何か持った方がいいのかなあ」
「夜遅くに出歩かないようにするとか、怪しい人とは接触しないようにする方が効果的じゃないですかね」
「君子は危うきに近寄らずと言いますしね」
 どことなく得意げな顔を葵はしていた。
「そりゃ不吹君の言うことはもっともだけどさ、厄介事っていうのはあちらからやってきたりもするじゃない。自衛だけでなんとかできるものじゃないからねえ。そういえばさ、酒を買い出しに行った時にちらっと耳にしたんだけど、またお侍様が殺されたらしいんだよ」
「それは本当ですか?」
「本当だと思うよ。代官屋敷の様子も慌ただしかったし」
「清正君。行こう」
「大丈夫?」
「うん。辛いとか言ってる場合じゃないから」
「わかった。出発しよう」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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