第25話5
文字数 739文字
床を叩き割った槍の柄に左足を乗せる。
槍を持ち上げようとする勢いに合わせて膝を折り、体を預ける。
右足が床から離れ、僕の体ごと槍が持ち上がる。
このまま天井なり壁に叩きつけるつもりなのだろう。
問題は角度だ。
タイミングは早すぎても遅すぎてもいけない。
浮遊感。
両手を振ってバランスをとる。
外は煙るような霧雨に変わっている。
眼下には天井の一部が崩れ、燃え盛る建物が見える。
浜田屋を焼く炎のお陰ではっきりと見えている地面がぐんぐん迫ってくる。
目を瞑りたいけど我慢してギリギリを見極める。
両つま先が地面に触れた瞬間、膝を曲げて衝撃を吸収しつつ背中を丸め、ガシャガシャと鎧を鳴らしながら転がった。
勢い余ってもう一回転したところで仰向けになって静止する。
緊張を解く。
投げ出したままの両手足が重い。
お腹の痛みは相変わらずだ。
この状態でよく相手の槍を利用して跳躍し、崩れた天井の穴から脱出できたものだ。
己の発揮した文字通りの火事場の馬鹿力に驚くしかない。