第8話3
文字数 677文字
旅籠は入口から奥へ向かって土間が続く縦に細長い構造をしている。
その一番奥まった場所が僕らの部屋だった。
衝立の向こうに回って濡れた服を脱いだ。
衝立に浴衣が架けられる。
体を拭き終えてからそれに袖を通し、布に包まれた大事な荷物を改めて懐に入れる。
衝立からそっと顔を出す。
葵はまだ濡れている翠寿の髪を拭いてあげており、着替え終えた澪と紅寿は濡れた服を長押にかけているところだった。
部屋は八畳一間の畳敷きだ。
そんな部屋に男は僕一人。
ここで一晩を明かすというのはなかなかに緊張を強いられる。
翠寿がにっこり笑う。
すっかりいつもの翠寿に戻っていた。やはりこうでないと。