第19話4

文字数 1,052文字

「澪をいじめるのはそこまでにしてください。それで、その勾玉をどうするんですか」

「実はな、儂の手元にはこういうものがある」

 差し出した右手の上には微かに緑みがかった水色の石があった。
「それは水縹の勾玉……?」

 だけど大きさは一回り以上小さい。形も異なっているようだ。


 ニヤリと笑った十水さんは反対の手も開いて見せる。

 そこにも水縹色の勾玉が乗っていた。


 大きさと形から見てこちらが本物だろう。

「この勾玉は儂が神石から削り出したものだ。小さいがよい形をしているだろう。この艶めかしくも美しい曲線を出せるのは儂ぐらいなものよ。我が仕事ながら見事な腕前に惚れ惚れするわ」
「小さい方の勾玉で機巧姫を作れば、それも水縹の君になるんですか?」
「そうだ。そうするつもりだったがやめた。面白いことをしてやる。褒美として受け取るがいい」

 右手に小さめの勾玉、左手に本来の水縹の勾玉を持った十水さんはパンと音を鳴らして両手を合わせた。


 その瞬間、眩い光が手の中から溢れ出す。

「な、何をしたんですか!?」

「ああああ……私の大事な水縹の勾玉が……」


「見てみよ」


 両手を開くと、そこには勾玉が一つだけある。
「あれ? もう一つはどこに……」
「わ、私の水縹は!? どこいっちゃったの?」

「ここにあるだろう」


「まさか二つの勾玉を合わせたとか……?」
「そうだ。須玉匠でも知る者は少ないが同色の勾玉はこうして一つにすることができる。言っておくが、簡単なように見えて修練が必要な技だぞ? 素人がやれば勾玉が砕けることもある。だが儂のような熟練者ならばこの通り。勾玉は融合して大きくなり、前よりも優れた能力を発揮する」

「こうきたか……」


 これはゲームにおいてキャラクターを重ねて上限突破をさせるようなものだ。

 ゲームシステムをこう解釈するとはエレガントな処理だと感心するしかない。

「元の勾玉も古式の上作であったが、これでさらに出来がよくなったのは儂が保証しよう。この勾玉に勝る古式の機巧姫はまずおるまいて。大事にしろ。貴様の連れ合いになる機巧姫なのだからな」



「……はいっ」


 受け取った勾玉を澪はかき抱く。

 紅寿と翠寿も澪の隣で嬉しそうに笑っていた。

「これはめでたいな。めでたい時には、小僧、何をする?」
「……お祝いでしょうか」
「ウム、その通り。というわけで今日も酒宴だ! 酒を出せィ!」
「昨夜、全部飲んじゃいましたよ」
「な、なんということだ……酒がなければ酒宴ができんではないか……」
「酒ならここにありますぞ!」
 屋外から聞き覚えのある声がした。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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