第23話2

文字数 681文字

「もしかして片寄さんたちだけで行っちゃったのかな」
「わからないけど嫌な予感がする。奥山田さんが見たのはどのぐらい前ですか」

「ついさっきのことだよ。お腹の具合が悪くて厠に入ろうとしたところで見かけてさ。用を足してからも気になったから、その足でここに来たんだよ」


 彼らはどこへ向かったのだろう。せめて行き先がわかればいいんだけど。

 あれこれ思案していると、鎧を手にした葵が僕の前に立った。

「今のうちに主様はこちらを身に着けてください」
「わかった。お願いするよ」
 背後に回った葵は跪いて左の臑当から付け始める。
「ちょっと体を動かしてみてもいいかな」
「はい」
 上半身を捻ったり、足を上げたり、その場でぴょんぴょんと跳ねてみる。
「うん、大丈夫そうだ」
「ほほう。こりゃ立派な若武者姿だね。なかなか似合うじゃないの」
「兜はいかがいたしましょう」

「僕が被れるものがあればいいんだけど」


 本来、甲冑は一品もので着用者にあつらえて作られる。

 一方で足軽に貸し出すための鎧もあるけど、その場合は兜ではなく陣笠だ。

「これなんかいいんじゃないかな」

 僕と同じく鎧を身に着けた澪が手にしているのは前立などの飾りがないシンプルな筋兜だった。

 大き目の眉庇がついているので野球帽に形が似ている。

 首の後ろを守る(しころ)も小札ではなく板状だから量産品なのかもしれない。

「ありがとう。使わせてもらうよ」
 頭上を覆うように鉢巻きを締めていると二つの足音が近づいてきた。
「清正さま! 清正さま! この人しかおーへんかった!」
 翠寿に手を引かれていたのは三島さんの小者をしていた橋目(はしめ)さんだ。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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