第29話4

文字数 967文字

「いや、待つんだ。そう考えるのは早計だろう。水縹の勾玉は今や古式でも屈指だ。その勾玉を使った機巧姫ともなれば神代式に最も近い存在と言っても過言ではない」
「十水さんもそんなことを言っていましたけど、体が合わなければ意味がないのでは?」
「それだよ。今の体がダメなら、合うようにしてやればいい!」
「道理ですね。ではそれを茅葺さんが?」
「いや。調律師には無理だよ」
「じゃあ、水縹はどうすればいいんですか!? お願いします。私、水縹の連れ合いにならないといけないんです!」
「わかってる。だから人形師に新しい体を用意してもらえばいい」
「なるほど。つまりリニューアル――修造するってわけですね」
「そういうことだ。この勾玉を見て奮い立たない人形師はいないだろうさ。せっかくだから一番腕のいい人形師にお願いしたいな。となると、やはり法性寺か。いやいや、定国(さだくに)も捨て難いな。悩むがここはこの国にいる法性寺だろうな。いずれにせよ神代式に迫る機巧姫になってくれるはずだ。早速、手紙を書くとしよう」
「よかったね、澪」
「えっと……つまり、どういうことなの?」
「今の勾玉に合うように水縹の体を新しく作ってもらうんだよ。きっと凄い人形になるんじゃないかな」
「ああ。間違いなく古式で一番の人形になるさ!」
「ありがとうございます! よろしくお願いします!」
「悪いけど、また君たちに出向いてもらうことになると思う」
「お任せください。旅は僕にとってもいい経験になりますから」
「そうか。時間ができたら今回の冒険譚もじっくり聞かせてもらおう」
「あ、そうだ。清正君もありがとう。水縹のためにいろいろしてくれて」
「そんなの気にしないでよ。僕がしたくてしたことなんだし」
「ううん。清正君がいてくれなかったら水縹の修理はまだ終わってないと思う。あの黒霧の武者に私だけで勝てたとは思えないし。全部、清正君のおかげだよ。だからありがとう」
 そう言って深々と頭を下げる。
「頭を上げてってば。澪はその……僕の友達だろ? 友達のために骨を折るのは当たり前のことだからさ」

「そっか。友達か。でもいつかちゃんとお礼をさせて。あ、そうだ。馬の乗り方を教えてあげるっていうのはどう?」

「それ、助かる。今度は馬で移動っていうのもいいね」

 次の旅が待っている。

 どんな旅になるか今から楽しみだった。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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