第12話4

文字数 826文字

「外洋に出るなど水江島との交易船よりも巨大でなければ無理な話。荒唐無稽と笑い捨てておりますが、人形に関してはそうはまいりません。許可なく機巧姫を他国に持ち出すのも、他者が所有する人形を破壊することも法に反するのですからな」
「その犯人捜しに協力をすればいいわけですね」
「おお、そう言っていただけますか。これは心強い。配下の者を総動員して事に当たっているのですがいかんせん数が足りておらず……しかし問題はそれだけではなくなったのです」
 口元を引き締めた三島さんが言葉を継ぐ。
「治安が乱れつつあるのは感じておりました。いたのですが……ついに人死が出たのです。私の家来でした」
「それは……お悔やみを申し上げます」
「かたじけない。昨日の見回りから戻らなかったので捜したところすでに事切れておりました。腹部を一突き。抵抗した跡はありませんでしたから下手人はかなりの手練れと思われます」
「殺された場所はどの辺りなのでしょう」
 三島さんが視線を向けて頷くと、部屋の隅で控えていた片寄さんが地図を広げてくれた。
「見つかったのはこの辺り。東の船着き場近くです」
「僕たちは舟でここまで来て、恐らくこの辺りを通って町に入ったんです」
「現場に近いですな」
「暗い上に雨も降っていたのではっきりとはわかりませんが、人通りがほとんどなく、建物も少ない場所だったと記憶しています」
「おっしゃる通り、ここは町の中心から外れているので空き家がいくつかあるばかりです。そこを寝床にしている不逞の輩がいるようだという噂があったので見回りをさせたのです。ご存じのように今はどこも人員に余裕がありません。ですから――」
「わかりました。僕たちでよければ力をお貸しします」
「その言葉、千の援軍を得た心持ちがいたします」

 そんな大げさなと思ったけど、機巧武者は一騎当千とされる存在だから言葉通りの意味で言ったのかもしれない。


 相手が機巧武者を出してくるようならば僕と葵が戦うしかない。

 腹を括っておこう。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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