第22話3

文字数 478文字

 雨具を着て馬に乗った二人と一体を見送った。

 遠ざかっていく蹄の音も雨のせいですぐに聞こえなくなる。

「戻ってくるのにどれぐらいかかるんだろう」
「この雨だから順調にいってもお城に着くのは夜遅くだろうね。もしかしたら日が変わってるかも。それから話をして人を揃えてってなると早くても明後日じゃないかな」
「ということは、今日と明日をなんとか乗り切ればいいわけか」
「そのためにはなにをしたらいいの?」
「特にはないよ。守りに専念するだけだから」

 無理をして三島さんたちを殺した犯人を捜し出して戦う必要はない。

 むしろ戦闘は積極的に避けるべきだ。

 残った僕たちがしなければならないのは援軍が来るまでの治安維持なのだから。

「幸い急を要する仕事はないそうだしね」

 水蛟との交易がらみの必要な手続きは既に終わっているそうだ。

 手が足りていないと愚痴をこぼしていたけれど、三島さんは能吏でもあった。本当に惜しい人を亡くしたものだ。

「そうなんだ。あーあ。雨が嫌なことを全部洗い流してくれたらいいのに……」
「この雨に乗じて厄介事が起きないのを祈るしかないね。そろそろ部屋に戻ろうか」
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

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